基本情報
書名 | 著者 | 読了日 | 評価 | 分野 |
利己的な遺伝子 | リチャード・ドーキンス | January 19, 2021 | ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ | Science |
読書メモ
生物進化のすべては単純なルールで説明できる―利己的な遺伝子による競争である―と。20世紀最大ともいわれる科学書は、その説得力も圧倒的だった。家族計画や雌雄、親子間の争いについて、相手を搾取しようとする遺伝子間の競争による説明が展開される。ゲーム理論を用い、ESS(進化的に安定な戦略)を求めるジョン=メイナード=スミスの議論が展開されるが、きれいな数学的な定式化がされており、説得力を高めている。
後半ではミーム論(文化を自己増殖する遺伝子のアナロジーで捉える)が展開されるが、徹底して主観を排した筆致は見事というほかはない。「神」というミームは、その残虐性と「死後の恐れの利用」によって、ミームとして拡散しているのだ、と。この議論は、同一著者の『神よ、さらば』の内容にもつながっている。
最後に筆者は、「Tip for Tat」(寛大かつ寛容)戦略の進化的安定性を語り、人類が利己的な遺伝子による支配を脱し、「胴元をだます、ノンゼロサムの」協力体制を敷くことができるのではないかというポジティブなメッセージをもって本書を閉じている。
まさに科学書というにふさわしい客観性・明確さと、人類に対する希望を共存させた本。
一言コメント
非常に有名な科学書を再読しました。本書だけを読むと、利己的な遺伝子による競争というアイデアはかなり説得力を持っているように感じられます。近年では別の研究で、本書後半で否定されている群淘汰理論などが見直されており、本書をそのまま最新の科学理論として受け取るのは問題が多そうです。とはいえ、今でも否定的に参照されるというのは、逆説的に、本書が名著であることを裏付けていると思われます。
2022/3/5