基本情報
書名 | 著者 | 読了日 | 評価 | 分野 |
世界はありのままに見ることができない | ドナルド・ホフマン | 2021年2月7日 | ⭐️⭐️ | Psychology |
読書メモ
進化論の立場から、哲学における重要な命題―実在とは何か―を解き明かした本。人間は意識の脳神経科学的な基盤は何かを解明しようとしているが、その答えは全く分かっていない。筆者が主張したいのは、そもそもニューロンが”知覚から独立して存在”し、そこら意識=知覚が生まれるというモデルが誤っているのではないかということだ。その主張を裏付けるため、筆者は知覚についての進化論的な説明を試みる。人間の知覚は、世界を正しく認識するようには進化しない。人間の適応度を最大化するように進化するのだ(FBT定理)。知覚は一つのユーザーインターフェース(ITP)であって、知覚から独立した実在などというものはない。後半では、様々な錯覚の例を基に、人間の知覚に備えられている補正機能(ヒューリスティックス)を説明する。知覚は完全でなく、完全であるべきではないのだ。本書の最後で筆者は、知覚から独立した実在はないという主張に対する様々な科学的な批判に対して反論する。筆者の主張のうち、「知覚は世界をそのまま記述するようには進化しないだろう」という指摘については同意する。一方、知覚から独立した実在なるものはないのだという主張については理解しきれていない。誰も見ていないときにも太陽は存在するはずだ。この反論はなぜ妥当ではないのか。さらなる思索が必要だと感じた。
一言コメント
実在論VS観念論はずっと哲学の主要命題であり続けていますが、その問いに進化論・脳科学からアプローチした本。哲学的理解も科学的理解も足りていない中で、理解できたのはほんの一部でした。自身の知覚は世界の真の姿を記述するものではない、というのは当然にも思えますが、つい忘れてしまいがちです。
2022/3/6