基本情報
書名 | 著者 | 読了日 | 評価 | 分野 |
反脆弱性(上) | ナシーム・ニコラス・タレブ | 2021年2月7日 | ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ | Philosophy |
反脆弱性(下) | ナシーム・ニコラス・タレブ | 2021年2月10日 | ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ | Philosophy |
読書メモ
(上巻)
ブラックスワンの作者タレブが、Antifragile(反脆弱性)の概念を語った書。圧倒的な知性と教養を併せ持つ筆者が自由に書きたいことを書いているが、メッセージは一つ。「反脆弱になれ」と。変動やリスクによって大きなダメージを受けるのが”脆い”、変動やリスクの影響を受けづらいのが”頑健”だとすれば、”反脆い”ものは、変動やリスクによってかえって利益を得るのだ。人間にも、ストレスを受けたときにストレスにかえって強くなるという”過剰補償”の機構が組み込まれている。この”冗長性”は決して無駄ではない。現代人は時として”観光客化”し、過度にランダム性や危険が取り除かれ、人間が本来持つ”反脆い”システムが機能しなくなっている。現代の病理はもう一つある。オプション性―反脆いシステム―を一方的に利用し、多くの人にブラックスワン的なリスクを押し付ける銀行家のような人々がいることだ。社会を前進させているのは正のリスクテイクをする個人であって、ブラックスワン的なリスクをとっている銀行家や経済学者ではない。このことからは、個人にとっても”バーベル戦略”を選択するべきことが示唆される。すなわち、資産の大部分については徹底的にリスクを回避し、一部については正のリスクをとるという、「負のブラックスワンを回避し、正のブラックスワンによる報酬を期待する」モデルだ。そもそも複雑なシステムの中でブラックスワンを予測などできはしない。過去のデータだけ見ていても”七面鳥問題”に陥るだけだ。学者や合理主義者は、追認の誤りを犯し、自身の貢献を過大評価している。”脆さ”を生む存在を批判し、自身を”反脆く”する、それが必要だと筆者は説く。
(下巻)
反脆弱性の下巻。前巻では”反脆さ”の概念を導入したが、本巻では、数学的定式化を行い、世の中の”フラジリスタ”たちを痛烈に批判する。数学的には、世界は線形ではなく非線形でできている。1mから10回飛び降りるより、10mから1回飛び降りる方が遥かにダメージが大きい。金融などのリスクも同じことだ。次に筆者は”ネオマニア”を批判する。新しいものは脆く、残り続けている知識こそが反脆いのだ。未来を予測する道は新しいものの追加ではない。未来では何がなくなるか、否定的な予測ならできるのではないかと筆者は主張する。続けて筆者は”フラジリスタ”の代表として、現代医学と経済学者(スティグリッツ)を批判する。彼らは自身でリスクを冒さず、不要な干渉主義に陥り、余計なブラックスワン的なリスクを大衆に押し付けている。自分でリスクを負っていない人間の言葉を信じるべきではない―その主張は尤もだ。本書は全体を通して圧倒的な説得力がある。タレブの言う”反脆さ”という概念は、確かなレベルで自身の思考の中にも刷り込まれてしまった。
一言コメント
この作者は自らの思考を他の人に刷り込むことに関して天才という他ありません。”反脆さ”という考え方には大いに影響を受けました。単にリスクを避けるべきではない、というのは過度な清潔さや安全を求める現代人が真摯に受け止めるべき警告なのではないかと思います。
2022/3/6