『グレート・リセット』

基本情報

書名著者読了日評価分野
グレート・リセットクラウス・シュワブ, ティエリ・マルレ2021年2月7日⭐️⭐️⭐️Economics

読書メモ

Great Reset―2020年ダボス会議のテーマである。コロナ禍で激動する社会で、どのように資本主義を再定義するのか、それは人類最大の課題である。
マクロ・リセットとしては、①コロナ禍で経済成長が止まり、経済成長に代わるものが求められる。②政府の役割が急速に増し、デジタル・ディストピアに向かうかの岐路に立たされる。③気候変動においてはコロナ禍でアクションが進む可能性も、止まる可能性もある。
ミクロ・リセットとしては、コロナ禍で産業構造が変化し、デジタル化が急速に進んでいる。リモート化できないエッセンシャルワーカーたちが社会で果たしている役割の大きさと、報酬の低さについて注目が集まった。人々の価値観も変化した。社会や環境の価値を認識するようになり、誰もが哲学的な議論に巻き込まれた。個人のメンタルヘルスは大問題になっている。
筆者は、コロナ後に人類が向かう方向について希望を述べて終わる。Build Back Betterの理念のように、コロナ禍を経て、人類がよりよい道に進む方法はあるだろうか。タレブの言う”反脆弱性”のように、危機によって人類が強くなる可能性を信じたい。

一言コメント

コロナで間違いなく世界は変わりました。それをどうポジティブな方向に進めていくかが、人類喫緊の課題なのは間違いないと思います。が、2022年になった今でも、中々よい方向にリセットされてはいないというのが、残念な実感としてあります。数年後このコメントを見返したとき、あの時はそんな悲観的に思っていたのが懐かしい、と、懐古できる未来になっていたらいいですね。
2022/3/6

『ジェンダーで学ぶ社会学』

基本情報

書名著者読了日評価分野
ジェンダーで学ぶ社会学伊藤公雄, 牟田和恵2021年2月7日⭐️⭐️Sociology

読書メモ

ジェンダーの観点から社会学を読み解く。本書は、育つ、遊ぶ、就活するなど様々な観点からジェンダーを捉える。教育においては、見た目上ジェンダー平等が達成されていても、「かくれたカリキュラム」が存在する。男子を先に配置する出席簿や、男子の方を目にかける教師の無意識のバイアスなど。こうした刷り込みは内製化されているので、その存在を認識し社会の認識を変えることは困難だが、無視できないものだ。雇用においては、エッセンシャル・ワークの脱ジェンダー化、女性に不利な日本型雇用慣行の廃止が必要だ。男性もまた、ジェンダー意識によって抑圧されている。男性が経済力を持つことが当たり前の社会では、男性もまた自由な生き方を追求できない。ケア労働については、その多くが女性によって担われ、その価値が適正に評価されていないのが大きな問題となっている。
この本では、表面的な差別だけではなく、社会構造に内製化されている抑圧や男性の視点含めて様々な観点からジェンダーについて学ぶことができる。2021年、東京オリンピック会長の性差別的な言葉が世間を騒がせる中、「すべての人が自分らしく生きられる社会」を実現するため、裏にある構造や無意識の抑圧にも向き合う必要があるのではないか、と感じさせられる。

一言コメント

自身は差別などしていないと思い込んでいても、間違いなく無意識の差別はしているし、社会構造に内製化されている抑圧に加担してもいるのだろうと思います。そこから逃れるためには、まず「知ること」が一番必要なのではないでしょうか。
2022/3/6

『反脆弱性(上)』『反脆弱性(下)』

基本情報

書名著者読了日評価分野
反脆弱性(上)ナシーム・ニコラス・タレブ2021年2月7日⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️Philosophy
反脆弱性(下)ナシーム・ニコラス・タレブ 2021年2月10日 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ Philosophy

読書メモ

(上巻)
ブラックスワンの作者タレブが、Antifragile(反脆弱性)の概念を語った書。圧倒的な知性と教養を併せ持つ筆者が自由に書きたいことを書いているが、メッセージは一つ。「反脆弱になれ」と。変動やリスクによって大きなダメージを受けるのが”脆い”、変動やリスクの影響を受けづらいのが”頑健”だとすれば、”反脆い”ものは、変動やリスクによってかえって利益を得るのだ。人間にも、ストレスを受けたときにストレスにかえって強くなるという”過剰補償”の機構が組み込まれている。この”冗長性”は決して無駄ではない。現代人は時として”観光客化”し、過度にランダム性や危険が取り除かれ、人間が本来持つ”反脆い”システムが機能しなくなっている。現代の病理はもう一つある。オプション性―反脆いシステム―を一方的に利用し、多くの人にブラックスワン的なリスクを押し付ける銀行家のような人々がいることだ。社会を前進させているのは正のリスクテイクをする個人であって、ブラックスワン的なリスクをとっている銀行家や経済学者ではない。このことからは、個人にとっても”バーベル戦略”を選択するべきことが示唆される。すなわち、資産の大部分については徹底的にリスクを回避し、一部については正のリスクをとるという、「負のブラックスワンを回避し、正のブラックスワンによる報酬を期待する」モデルだ。そもそも複雑なシステムの中でブラックスワンを予測などできはしない。過去のデータだけ見ていても”七面鳥問題”に陥るだけだ。学者や合理主義者は、追認の誤りを犯し、自身の貢献を過大評価している。”脆さ”を生む存在を批判し、自身を”反脆く”する、それが必要だと筆者は説く。

(下巻)
反脆弱性の下巻。前巻では”反脆さ”の概念を導入したが、本巻では、数学的定式化を行い、世の中の”フラジリスタ”たちを痛烈に批判する。数学的には、世界は線形ではなく非線形でできている。1mから10回飛び降りるより、10mから1回飛び降りる方が遥かにダメージが大きい。金融などのリスクも同じことだ。次に筆者は”ネオマニア”を批判する。新しいものは脆く、残り続けている知識こそが反脆いのだ。未来を予測する道は新しいものの追加ではない。未来では何がなくなるか、否定的な予測ならできるのではないかと筆者は主張する。続けて筆者は”フラジリスタ”の代表として、現代医学と経済学者(スティグリッツ)を批判する。彼らは自身でリスクを冒さず、不要な干渉主義に陥り、余計なブラックスワン的なリスクを大衆に押し付けている。自分でリスクを負っていない人間の言葉を信じるべきではない―その主張は尤もだ。本書は全体を通して圧倒的な説得力がある。タレブの言う”反脆さ”という概念は、確かなレベルで自身の思考の中にも刷り込まれてしまった。

一言コメント

この作者は自らの思考を他の人に刷り込むことに関して天才という他ありません。”反脆さ”という考え方には大いに影響を受けました。単にリスクを避けるべきではない、というのは過度な清潔さや安全を求める現代人が真摯に受け止めるべき警告なのではないかと思います。
2022/3/6

『「役に立たない」科学が役に立つ』

基本情報

書名著者読了日評価分野
「役に立たない」科学が役に立つエイブラハム・フレクスナー, ロベルト・ダイクラーフ2021年2月7日⭐️⭐️Science

読書メモ

1930年に設立されたプリンストン高等研究所の初代所長フレクスナーが基礎科学の有益性について語った論考を再録し、考察を加えた本。筆者のメッセージは、フレクスナーの論考の価値は今なお衰えず、科学者の純粋な好奇心に基づく基礎研究が社会を前進させているのだ、ということ。無線機を発明したマルコーニを称揚するのではなく、その裏にある電気の原理を純粋なる科学的関心から解き明かしたファラデー、マクスウェルを称揚するべきだ、と。電気以外にも、基礎研究が後に応用された例は、量子力学や相対論など多々存在する。何かというと科学が”役立つか”という視点で判断される今、基礎研究の重要性を説いた論考を再び読むことには価値があると感じる。

一言コメント

どうしても政治は科学を役に立つかの観点で評価しようとします。基礎科学の重要性は本書に登場するフレクスナーだけではなく、あらゆる科学者が繰り返し述べていますが、これからも主張し続けなければならないことなのだと思います。
2022/3/6

『自由の限界 世界の知性21人が問う国家と民主主義』

基本情報

書名著者読了日評価分野
自由の限界 世界の知性21人が問う国家と民主主義yuval noah harari, エマニュエル・トッド, ジャック・アタリ, マルクス・ガブリエル2021年2月7日⭐️⭐️⭐️Philosophy

読書メモ

世界の偉大な知性21人から学ぶ。欧州やアジア、コロナ後まで、現在の様々な問題について語られる。”新しい世界”と同様、各議論は面白いが、短い論考ではそれぞれの考えの一端しか知ることができない。実際に彼ら・彼女らの著作を読むきっかけを作る、”知性のドーピング”をする――そうした目的で、時に読み返すような本なのかもしれない。

一言コメント

『新しい世界 世界の賢人16人が語る未来』に対する感想とほとんど同じことを書いています。やはり、色々な論者の短い論考の寄せ集めだと全く記憶に残りません。「知」への近道はありませんね。
2022/3/6

『地方創生への挑戦』

基本情報

書名著者読了日評価分野
地方創生への挑戦北尾吉孝2021年2月7日⭐️⭐️Finance

読書メモ

SBIの会長が野望を語った本。「公益は私益につながる」という理念には共感する。SBI社は地方創生を前面に掲げ、各地銀との連携を実施している。各銀行のシステムをAPI化し、SBIのサービスとつなぐ―確かに地方創生において欠かせないのはそうしたFinTech企業との連携なのかもしれない。

一言コメント

短い本で、読書メモも短めです。”地方創生”がバズワードとなって久しいですが、それをどう実現するかのロードマップを描くのは想像を遥かに超えて難しいのだろうと思います。地方の未来のために何ができるか考えさせられます。
2022/3/6

『みずほ銀行システム統合、苦闘の19年史』

基本情報

書名著者読了日評価分野
みずほ銀行システム統合、苦闘の19年史日経コンピュータ2021年2月7日⭐️⭐️Finance

読書メモ

みずほ勘定系システムの開発についての本。2000年代、2度にわたる大規模システム障害を起こす。その反省を受けて開発された”MINORI”は、想像よりもはるかに進んでいた。マイクロサービス化、クラウド、バッチレス…。AS-ISを排した要件定義…。こんなにも大きなプロジェクト、大きな変革を実施できたということは素直に現場の努力がすごいと感じる。一方で、過去の障害の事例でもわかるように、経営陣には深刻なITの不理解、硬直した組織体制がある。その状況は大きくは変わっていないと思うが、なぜプロジェクトが成功したのだろう?事例から学ぶことは多い。

一言コメント

数少ない本業に関連した本。本書を読んだ後、みずほ銀行で障害が繰り返されたのは記憶に新しいところです。システムとしては決して悪いものではないのではと思いつつ、やはりこれほど巨大なシステムで完璧を実現するのは不可能なのだろうと感じます。質の高い運用というのもまた難しいテーマですね。今となっては批判的に学ぶべき事例となってしまっているかもしれません。
2022/3/6

『新しい世界 世界の賢人16人が語る未来』

基本情報

書名著者読了日評価分野
新しい世界 世界の賢人16人が語る未来yuval noah harari, エマニュエル・トッド, トマ・ピケティ, ナオミ・クライン, ナシーム・ニコラス・タレブ, マイケル・サンデル2021年2月7日⭐️⭐️⭐️Philosophy

読書メモ

世界の偉大な知性16人から学ぶ。コロナから経済、不平等に至るまで、現在の様々な問題について語られる。各議論は面白いが、短い論考ではそれぞれの考えの一端しか知ることができない。実際に彼ら・彼女らの著作を読むきっかけを作る、”知性のドーピング”をする――そうした目的で、時に読み返すような本なのかもしれない。実際にこの本の後にタレブの反脆弱性を読み、その思考の深さに圧倒された。同時代の知の巨人に学ぶことは今後も続けたい(同じくらい、読み継がれている古典―すなわち過去の知の巨人の遺産―を学ぶことも重要なのであるが。)

一言コメント

世界の賢人たちの短い論考を複数読めば、彼らの思考を効率よく学ぶことができる―ほど世の中は易しくはありませんでした。現在この本に書かれた内容は何一つとして思い出せません。やはり、思考を知るには主著を最低一冊読むしかなさそうです。とはいえ、次に誰の本を読むべきかの索引としては、価値のある本なのだろうと思います。
2022/3/6

『経済学を味わう』

基本情報

書名著者読了日評価分野
経済学を味わう佐藤泰裕, 岡崎哲二, 市村英彦, 松井彰彦2021年2月7日⭐️⭐️Economics

読書メモ

東大の経済学者が自身の専門について語った本。内容自体は初歩的で、大学で学んだことの復習に近かった。確かに大学1、2年生時にこうした経済学の基礎のような講座があれば、より勉強する学問の全体像を理解できていたかもしれない。

一言コメント

読書メモが非常に短いですが、経済学初心者が経済学の概要を掴むための入門書としては非常によいものだと思います。経済学がどのような学問か、しっかり理解した上で進路選択したわけではなかったなあ、と大学時代を思い返します。
2022/3/6

『世界はありのままに見ることができない』

基本情報

書名著者読了日評価分野
世界はありのままに見ることができないドナルド・ホフマン2021年2月7日⭐️⭐️Psychology

読書メモ

進化論の立場から、哲学における重要な命題―実在とは何か―を解き明かした本。人間は意識の脳神経科学的な基盤は何かを解明しようとしているが、その答えは全く分かっていない。筆者が主張したいのは、そもそもニューロンが”知覚から独立して存在”し、そこら意識=知覚が生まれるというモデルが誤っているのではないかということだ。その主張を裏付けるため、筆者は知覚についての進化論的な説明を試みる。人間の知覚は、世界を正しく認識するようには進化しない。人間の適応度を最大化するように進化するのだ(FBT定理)。知覚は一つのユーザーインターフェース(ITP)であって、知覚から独立した実在などというものはない。後半では、様々な錯覚の例を基に、人間の知覚に備えられている補正機能(ヒューリスティックス)を説明する。知覚は完全でなく、完全であるべきではないのだ。本書の最後で筆者は、知覚から独立した実在はないという主張に対する様々な科学的な批判に対して反論する。筆者の主張のうち、「知覚は世界をそのまま記述するようには進化しないだろう」という指摘については同意する。一方、知覚から独立した実在なるものはないのだという主張については理解しきれていない。誰も見ていないときにも太陽は存在するはずだ。この反論はなぜ妥当ではないのか。さらなる思索が必要だと感じた。

一言コメント

実在論VS観念論はずっと哲学の主要命題であり続けていますが、その問いに進化論・脳科学からアプローチした本。哲学的理解も科学的理解も足りていない中で、理解できたのはほんの一部でした。自身の知覚は世界の真の姿を記述するものではない、というのは当然にも思えますが、つい忘れてしまいがちです。
2022/3/6