基本情報
書名 | 著者 | 読了日 | 評価 | 分野 |
人新世の「資本論」 | 斎藤幸平 | 2021年5月30日 | ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ | Economics |
読書メモ
人類は危機を迎えている。資源を無制限に使い、環境を破壊し続けている。人による環境変動を特徴とする、”人新世”の時代に突入したのだ。こうした環境破壊をもたらした要因は何か。それは資本の再投下による無限の成長を特徴とする資本主義それ自体にある、と筆者は説く。
環境破壊が問題であることは広く認識されているが、今までの取り組みは、資本主義の枠内での解決策だった。SDGsの中核を成す”持続可能な開発”も、バイデン政権が重視するグリーンニューディールもそう。根本に資本主義がある限り、成長を求め続ける限り、どれだけ脱炭素の取り組みが進んでも、新たな市場、新たな需要が生まれ、改善分は打ち消されてしまうのだ。
技術が全てを解決するというテクノユートピア思想も広く流布している。技術が重要なのは言うまでもないが、技術のほとんどは環境負荷を外部化し、形だけの”グリーン”を演出しているにすぎない。
結局一番の問題は、先進国の人間の帝国主義的生活様式にある。筆者は、目指す先は脱成長コミュニズムだ、と説く。筆者はマルクス専門家として、後期のマルクス思想を読み取り、過去の定説になかった脱成長コミュニズムの考え方をそこに見出した。成長をスローダウンさせ、社会の分配を公正にし、必要以上の消費を抑える。資本主義社会で傷ついた”コモン”を復活させる。それ以外に危機を脱する方法はないのだ、と。
最後に筆者は、どうやってこうした世界を実現するか述べて終わる。政治的エリートを頼みにするのではなく、市民が連帯して声を上げることから全ては始まる、と。人類が目指すべき場所について、過去の偉大な思想家の考えを引きながら説得力をもって語った本書は、新時代の古典というべきものなのかもしれない。
一言コメント
資本主義システムが限界を迎えていて、大きな変革が必要と言う主張には強く共感します。専門外の身なので、本当に脱成長コミュニズムの理想をマルクスから読み取ることができるのかは分かりませんが、マルクスが現代においても参照するべき偉大な思想家であることは間違いないと思います。理想をどう実現するか、本気で考えるべき課題です。
2022/5/1