基本情報
書名 | 著者 | 読了日 | 評価 | 分野 |
すばらしき新世界 | オルダス・ハクスリー | 2021年6月27日 | ⭐️⭐️ | Literature |
読書メモ ※ネタバレを含みます
人々は皆健康で、煩わしい人間関係はなく、欲望のままに生きられる。困ったときにはソーマが幸福をくれる。ああ、すばらしい新世界。すばらしい新世界?
ここで描かれる世界では、私たちが「人間らしさ」と感じるものが奪われている。子どもは人工的に産まれ、家族は解体されている。連帯は作られたもので、幼少期の洗脳によって考えが限定され、社会の安定が実現している。人間は厳密に階級分けされ、それが身体的・知的能力の差として表れている。文化・芸術も不要なものとして排除され、浅薄な娯楽が中心的になっている。
本書のストーリーは、様々な登場人物を軸に展開する。中心にいるのは、文明の中にいながら文明に適合できなかったバーナード・マルクスとヘルムホルツ・ワトソン、そして野人ジョンである。シェイクスピアを暗唱できるジョンは、現代でいえば文明的な人間だが、作中では野蛮な見世物としてしか扱われない。自然な愛情を求めることも狂っているとみなされる。そして最後には悲惨な結末を迎える。彼のような人間が「野蛮」として排斥される、すばらしい「文明」の世界―これ以上ないほどの皮肉ではないか。
ハクスリーの描いたディストピアはリアルで、現代まで読み継がれているだけのことはある。幸福薬ソーマや、遺伝子改変が技術的に可能になりつつある現代では、本書はより一層重要度を増している。このディストピア小説を通じ、ハクスリーは「人間らしさ」とは何だろう?どういう社会を望むのか?ということを問いかけたかったのかもしれない。
一言コメント
超有名なディストピア小説です。皆満足しているのに、これだけ最悪な世界を描けるのは見事です。すばらしき新世界というタイトルの皮肉が刺さります。幸福薬ソーマもおとぎ話の世界ではない現代、改めて読まれる価値がある作品です。
2022/5/1