『国家はなぜ衰退するのか(上):権力・繁栄・貧困の起源』『国家はなぜ衰退するのか(下):権力・繁栄・貧困の起源』

基本情報

書名2021年7月4日書名著者読了日評価分野
国家はなぜ衰退するのか(上):権力・繁栄・貧困の起源ジェイムズ A ロビンソン, ダロン アセモグル2021年7月4日⭐️⭐️⭐️Development
国家はなぜ衰退するのか(下):権力・繁栄・貧困の起源ジェイムズ A ロビンソン, ダロン アセモグル2021年7月4日⭐️⭐️⭐️Development

読書メモ

(上)
世界にはなぜ豊かな国と貧しい国が存在するのか。地理的な要因か、それとも文化・遺伝的な要因があるのか。
筆者は説く、「そうではない、すべてを決めるのは制度だ」と。
本書は、いわゆる「制度学派」の筆者がその主張を一般向けに分かりやすく解説したものである。世界を見回してみると、地理的にはごく近いにも関わらず、全く違う運命を辿った地域の例がいくつも見つかる。ノガレス市はアメリカとメキシコにまたがるが、両国で町の様相は全く異なる。同時期に見つかった「新大陸」の内、北米大陸は繁栄を謳歌しているが、南米大陸では未だに悲惨な不平等と貧困が残っている。こうした運命の相違を、地理説、文化説、無知説のいずれもが十分に説明できない。国境をまたいだノガレス市の違い、それは制度が「包括的」か「収奪的」かということだ。包括的な経済制度の下では、人々は自らの能力を生かし、生産性を高めるインセンティブを持つ。それがイノベーションを生む。一方、収奪的な経済制度の下では、生産性を高めるインセンティブはなく、イノベーションも生まれない。政治制度も経済制度と不可分に結びついている。包括的な政治制度と包括的な経済制度の組み合わせが持続的な発展を生む。植民地支配を行ったスペイン、1960年代までのソ連のように、収奪的な政治・経済制度の下でも発展が生まれるケースはあるが、持続可能ではない。
こうした制度の違いを生んだもの、それは恐らく歴史的偶然に過ぎない。ヨーロッパを例にとると、ペストの流行によって西欧で収奪的な封建制が崩壊し、東欧では逆に封建制が強化されたことが、両者の運命を分ける転換点となった。これは偶然に過ぎないが、その結果として東欧ではなくイングランドで名誉革命が起き、包括的な政治・経済制度が繁栄をもたらしたのだ。

(下)
下巻でも上巻に引き続き、制度の重要性を具体例を基に語る。西欧は包括的な政治・経済制度によって発展したが、その帝国主義は被支配地域には収奪的な制度を強要した。こうした支配制度は植民地支配を脱した後も引き継がれ、現代にいたるまでのグローバル・サウスとグローバル・ノースの格差を生んでいる。オーストラリアやニュージーランドは同じく植民地ではあるが、収奪の対象になるだけの先住民がいなかったこともあって包括的な政治・経済制度が導入され、西欧と同じような発展を経験した。中央集権的な幕府に代わり、薩長を中心とする各藩が団結し、政治改革を成し遂げたことで、日本は植民地支配の例外になることができた。
それでは、制度を変え、発展への道を進むには何をすればよいのだろうか。制度の大きな特徴は、正のフィードバックがあることだ。包括的な政治・経済制度の基では、相互の信頼が生まれ、発展によって制度が安定する。一方、収奪的な政治・経済制度の基では、収奪からの報酬、すなわちレントが大きく、悲惨な紛争・内戦に陥る可能性が高い。そうした紛争が社会の崩壊を生み、一層包括的な政治・経済制度の実現を難しくするのだ。
こうした運命を反転させる魔法の処方箋は当然存在しない。間違いないのは、ただ国家間援助を実施すればよいというわけではない、ということだ。少しでも多元主義が実現するよう働きかけるしかないのだろう。
本書は一般向けだけあって、現実をやや単純化しすぎているという印象は受ける。制度だけで決まることはなく、国としてのソーシャルキャピタルといった要素も運命に大きく影響するだろう。しかし、貧しい国の運命を変えるために、制度を考えることの重要性を問いかけたことは、開発の世界に大きな影響を与えたに違いない。

一言コメント

いわゆる「制度学派」の入門書。数年ぶりの再読です。間違いなく国の運命を決めるのは制度だけではないですが、制度が占める要素が大きいというのも事実であるように思います。開発経済は学生時代の専攻ではあるので、この分野は引き続きウォッチしていきたいですね。
2022/5/1

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