基本情報
書名 | 著者 | 読了日 | 評価 | 分野 |
物質の究極像をめざして 素粒子論とその歴史 | 和田純夫 | 2021年5月22日 | ⭐️⭐️⭐️⭐️ | Science |
読書メモ
素粒子論の歴史を分かりやすく解説した本。
あらゆる学問に共通していることだが、素粒子論は常に理論と観測の両輪で発展してきた。電子はなぜ原子核に墜落しないのか?正電荷を持つ陽子はなぜ原子核を形成できるのか?ハドロンが複数種類存在するのはなぜか?観測事実から生まれてきた疑問が新たな理論を生む。自然界には強い力(核力)、電磁気力、弱い力(4つ目に重力があるが、前3者との理論的統合は全く進んでいない)が存在する。原子核を構成する核子(陽子、中性子)は実は素粒子ではなく、クオークとグルーオンの相互作用によって作られているのだ。理論の肝となるのが「相互作用バーテクス」。相互作用により、粒子が生成・消滅する。バーテクスで表現される相互作用が重力以外の本質なのだ。
1970年代に大幅な進歩があって形成された”素粒子標準理論”であるが、物質の究極像にはまだほど遠い。宇宙論の観測結果によれば、宇宙の9割以上は未知の物質・エネルギーである。見付かっていない新たな素粒子は確実にある。最大の課題は重力。近年重力波天文学が発展しているが、重力というあまりにも弱すぎる力がどのように伝わっているのかは全くの未知である。これから先素粒子論がどのように展開していくのか、楽しみで仕方がない。量子力学の不思議な観測事実について語った本は数多くあるが、素粒子論について扱った一般書は少ないため、とても勉強になった。
一言コメント
量子力学について解説した入門書や記事は数多くあれど、素粒子論についてきちんと扱ったものは多くない印象です。本書はそんな希少な1冊で、全くの門外漢にも素粒子論の面白さの片鱗を感じさせてくれました。特に、相互作用を表現する「相互作用バーテクス」の図は視覚的に分かりやすく、印象に残ります。真に理解するのは不可能なくらい難解な分野ですが、門外漢なりに興味を持っていたいですね。
2022/5/1