『運命と選択の科学』

基本情報

書名著者読了日評価分野
運命と選択の科学ハナ―・クリッチロウ2021年5月23日⭐️⭐️⭐️⭐️Science

読書メモ

自由意志は存在するのか―過去多くの哲学者が考察してきた問いであるが、近年自由意志は脳科学からの攻撃を受けている。人間の脳の働きはニューロンとシナプスによって生まれるものにすぎない。もはや脳は神聖なものではなく、科学的に観測可能なものでしかない。
本書は、脳科学の視点から、自由意志が本当にあるのか考察する。「自由意志などない。全ては生物学的に決まっている。」という脳科学的な決定論・宿命論がはびこる世界は絶望に溢れているに違いない。筆者は、単純な宿命論を退ける立場から、脳について科学的に分かっていることを解説していく。
肥満といった一般に自己責任とみなされがちな現象であっても、その多くは遺伝的に決まっている。この運命は変えられないのか?実はそうではない。エピジェネティックスにより遺伝子の発現をコントロールすることはできる。遺伝がどれほど重要といっても、環境要因も大きいのだ。
人の信念も、生まれた時の脳の特徴、情動反応によって決定されるところが大きい。信念さえも変えられないのか?そうではない。ある脳、ある状況において、ある人がどのような考え方をしやすいということを言うことはできるが、信念も複雑な環境に影響される。少なくともそこに、非決定論的な要素を追加することができるのだ。
恐らく、個々の生物としての人間は、各自が思っている以上に遺伝に影響され、決定論的だ。ただし、そこに自由意志が完全にないわけではない。なぜなら、人間は大きく環境に影響され、集団としてなら、より相互に利他的なように変わることができるから。単純な宿命論だけの世界は悲惨だ。少なくとも自身の自由意志を信じることなしに人は生きていけないだろう。集団としてなら、決定論からきっと逃れられる。筆者の主張は、科学的でありながら、希望に満ちているものだった。

一言コメント

脳科学がこれほど発展した世界で、人間は「自由意志」を保っていられるのでしょうか。本書は脳科学者がその問いに答えたものです。個体としての人間で見れば、確かに遺伝子や環境に支配されるところが大きく、自由意志は幻想にすぎないのかもしれませんが、他の人と関わることでそこにランダム性を付与できるというのは興味深い論考でした。脳科学が人類に希望を与えてくれるような学問になればいいなと思います。
2022/5/1

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