『21世紀の文化人類学』

基本情報

書名著者読了日評価分野
21世紀の文化人類学前川啓治他2021年7月11日⭐️⭐️⭐️⭐️Anthropology

読書メモ

21世紀の文化人類学はどこに向かうのか―それを何人かの文化人類学者が語る。
文化人類学の扱う学問的主題、「他者の文化を知り、何かしらの一般的な理論を見出すこと」は本質的に非常に困難である。フィールドワーカーは所属する文化や言語によって思考や表現が規定されている。そんなフィールドワーカーが、調査先の文化を相対的に見る(=超越的視点を持つ)ことは根源的に不可能だ。
文化人類学が今まで作り上げてきたものは「民族誌」の厚い記述であるが、ポストモダンの影響を受けた1980年代の『文化を書く』論争の中で、「民族誌」は客観的たりえないという自己批判がなされる。この後、一般的理論を語れない文化人類学は知的世界をリードできず、衰退していく。そうした中で文化人類学はどこに向かうべきなのかが事例を基に語られる。
一つの道は、存在論的転回で、自身が自文化に規定されていることを認識しつつ(=超越論的視点を持つ)、対象となる人々自身が自らを知る知り方に接近することで自らを変容させ、我々が自明視しているものの相対化を一層推し進めるという動きである。「われわれ」は「かれら」をただ観察するのではなく、「われわれ」と「かれら」がともに新しい記述を「発明」するのである。例えばストラザーンは、メラネシアの世界に「indivisual」概念と対立する「分割可能な人格」を見出した。ヴィヴィエロス・デ・カストロは「パースペクティヴィズム論」を唱え、自明だと思われていた自然/文化の対立さえも曖昧にして見せた。こうした文化人類学の考え方は他の社会科学にも影響をもたらしうるに違いない。
他の道として、時間を超える必要性が語られる。人類学は「かれら」の文化をある意味固定的なものと想定していたが、「かれら」の文化それ自体日々生成・変化するものである。歴史の視点を取り入れた文化人類学が求められている。
文化人類学がいかに実践に関わるかというのも重要な点である。災害後における被害者の状況調査や、反差別運動、開発に対して文化人類学は重要な役割を果たしうるが、「厚い記述」の長い時間性はその役割を阻害しており、そこにある権力性の批判にとどまり実践につながらないといったケースも多かった。実践につながる文化人類学が求められている。
1冊を通して極めて難解な議論が展開される。文化人類学は、超越論的視点を持ったうえで文化を理解し、何かを語ろうという取り組みであるが、その厳格すぎるほどの知的な誠実さにより自己批判を起こし、何も語れなくなった部分があったのではないか。一方で、「われわれ」の思考を相対化する文化人類学の価値は、リキッドモダニティの時代において非常に高まっているはずだ。
文化人類学が自己批判を自ら超克し、知的世界をリードすることが、社会科学ひいては人類に大いに貢献することだけは間違いないだろう。

一言コメント

文化人類学の専門書ですが、専門外の人間には極めて難解でした。文化人類学自体、社会科学の中で知名度が低い印象ですが、そこから学ぶべきことは多くあります。このレベルの書を読みこなせるようになるまで、文化人類学に対する理解度を高めたいですね。読書メモも頑張って書いた記憶がありますが、内容が合っている自信はありません。
2022/5/1

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