基本情報
書名 | 著者 | 読了日 | 評価 | 分野 |
40人の神経科学者に脳の一番面白いところを聞いてみた | デイヴィッド・J・リンデン | 2021年5月23日 | ⭐️⭐️⭐️⭐️ | Science |
読書メモ
世界中の高名な脳科学者が脳について語る。
生まれか育ちか論争は常に話題になるが、最新の脳科学によれば、その答えは「どちらも」でしかない。遺伝は知的能力の大部分を説明できるほど重要であるが、遺伝子が発現するかのエピジェネティックスは環境に影響されるし、脳には可塑性があり、多くの人が思っている以上に配列が日々書き換わる。とはいえ、可塑性は万能ではない。胎児時代、子ども時代に受けた脳へのダメージは生涯続くこともある。自分ではどうにもできない遺伝と、ある程度はコントロールし得る環境(幼少期の環境は親によって決定されるが)のバランスで人間ができているからこそ、時に自分を信じて努力しつつ、時にどうにもならないことを上位の存在に責任を負わせ、人々は生きていられるのかもしれない。
論考の中で一番印象に残ったのは編者によるLGBTの議論。性的指向の約半分は遺伝子によって決まる。残りの半分は環境による。因果関係とは言えないが、幼少期の遊びが”異性的”であるほど、同性愛的指向が強まるという相関関係がある。子どもの性的指向を尊重するのは親として当然としても、もし生来の性的指向というものは半分にすぎず、子どもは未だに性的指向が定まっていない存在なのだとしたら―。子どもの性的指向を異性愛に”ナッジ”するような育て方をすることは倫理的に許容されるのだろうか。非常に難しい問題がそこにはあると思う。
脳について多面的な知識を得られる本。なるほど、脳は面白い。
一言コメント
脳について様々に語られている書です。様々な要素に生まれも育ちも絡んでいて、親が介入できる部分も大きいと考えると、中々倫理的に難しい問題もありそうです。脳について知りたい気持ちがある一方で、脳の働きは永遠に未知であり続けてほしいと願ってしまうのは、人間の脳のどこかに神秘性を期待してしまっているからでしょうか。
2022/5/1