基本情報
書名 | 著者 | 読了日 | 評価 | 分野 |
THE LONELY CENTURY | ノリーナ・ハーツ | 2021年8月15日 | ⭐️⭐️⭐️⭐️ | Sociology |
読書メモ
21世紀ほど人類が孤独になった世紀はない。そしてそれは新型コロナの感染拡大及びロックダウンによって加速している。本書は現代の孤独という病理を様々な角度から解き明かしたものである。
様々なデータが示すように、現代ではどの先進国も孤独を感じる人の割合が非常に高い。孤独は個人・社会に対して非常に悪い影響をもたらす。孤独な人間は常にストレスを感じており、様々な健康リスクが高いことがデータとして示されている。コミュニティに関わり、他人を助けることは自身の幸福や健康にも直結するのだ。孤独はまた、過激主義の台頭にも関連している。孤独で周囲に信頼できる人間がいない人ほど、極右ポピュリストが宣伝する排他的で分断的なコミュニティに魅力を感じる傾向がある。
現代人が孤独なのではコロナ禍で始まったことではなく、構造的な問題がある。過去を通して都市化が進んでいるが、都会は儀礼的無関心の場であり、人は孤独になりやすい。農村で成立していた地域社会は人の流動性が高い都市では成立せず、人はコミュニティを持たない状況に追い込まれてしまう。デジタル化とコンタクトレスの都市設計は、住民同士の何気ない交流の頻度を低下させてきた。スマートフォンとSNSは人と常時つながっているように錯覚させるが、対面でのコミュニケーションにおける共感力を低下させ、質の高い交流機会を奪っている。職場もまた、孤独を生む場所となっている。コミュニケーションのメール化、効率性の追求などにより、職場でのインフォーマルな交流は激減した。この結果、職場が仕事のみの場所となり、職場で孤独を感じる人が増えることになった。近年の技術発展もまた、効率化の名のもとに人々の仕事を奪い、対面での接触をなくす方向に進んでいる。
こうした状況の中で、孤独を逃れたいという欲求に応えるようなビジネスも生まれている。接触の欲求はロボットによって満たされる。コワーキングスペースのビジネスも成長が著しい。ただし、こうしたビジネスは必ずしも包括的なものではないし、人的交流の完全な代替になるわけでもない。
孤独の世紀を逆転するには何をすればよいのだろうか。それは、孤独に向けた構造的要因―伝統的な家族やコミュニティを崩壊させ、過度な個人主義と効率至上主義を生んだ新自由主義―を修正することだ。資本主義をケアや思いやりと再び結び付け、コミュニティの価値を認識する。そのためには政治によるコミットメントも重要だし、隣人の助けに対して感謝の言葉を述べるような一人一人の心がけもまた重要になってくる。
21世紀を孤独の世紀ではなく、誰もが誰かと繋がっていると感じられる世紀にしたい、筆者の想いには非常に共感する。
一言コメント
現代人は過去に例がないくらい孤独になっています。本書は孤独がいかに問題であるかを語ったものです。人と人の繋がりが大事にされる、そんな社会になることを願います。
2022/5/1