基本情報
書名 | 著者 | 読了日 | 評価 | 分野 |
ジェンダーと脳 | ダフナ・ジョエル, ルバ・ヴィハンスキ | 2021年9月19日 | ⭐️⭐️⭐️⭐️ | Science |
読書メモ
本書の主張は一つ。男脳と女脳などというものは存在しない、あるのは「男性に多い特徴」と「女性に多い特徴」の両方を持っている「モザイク脳」だけなのだ―と。
ジェンダー平等が進む現代でさえ、厳然たる性差が脳に存在しているという主張は、科学界において根強く残っている。歴史を振り返ると、男性の方が優れているという信念に対し、裏付ける「科学的証拠」を提供するのが「科学」の役割であったといっても過言ではない。そうした「科学」は差別や偏見を正当化する。本書は、男女の脳は異なる(それゆえに男女の間の不平等は正当化されうる)という伝統的な考え方とは全く異なる仮説を提示する。
確かに男女の間に違いはあるし、脳についても、「男性らしい」特徴と「女性らしい」特徴があることは間違いない。そうは言っても、男女の脳というものは「男脳」と「女脳」に明確に二分化されるものなのだろうか。筆者は「そうではなく、人の脳はモザイクなのだ」と説く。人間の脳には可塑性があり、脳は日々書き換わる。脳には確かに「男性らしい」特徴と「女性らしい」特徴があるが、すべての人はその両方の特徴を重ね合わせて持っているのだ。
真実はモザイクなのに、未だにジェンダーというバイナリーの考え方は強く残っている。ジェンダーステレオタイプは、様々な経路を通じて、実際に差異を現実のものにしてしまう。このジェンダーという神話は私たち全員を枠にはめ込み、「自分らしさ」を傷つけているのだ。
この神話に対抗するには、ジェンダーバイアスに気づき、それを取り除くための努力を続けることが必要だ。
誰もがモザイク脳を持つ世界で、「自分らしさ」を生きられるようにするーそんな理想の世界を目指すために、本書が提供する新しい「科学的証拠」が果たす役割は非常に大きいのではないか。希望を与えてくれる一冊。
一言コメント
人間の脳はモザイク脳で、男脳、女脳などというものはない、というのは非常に勇気づけられる研究結果であるように思います。誰もがそれぞれ脳の特徴や傾向を持ちつつも、それが尊重されて生きていける社会になればいいなと思います。
2022/5/4