基本情報
書名 | 著者 | 読了日 | 評価 | 分野 |
デジタル化する新興国 | 伊藤亜聖 | 2021年10月2日 | ⭐️⭐️ | Economics |
読書メモ
近年新興国のデジタル化が一層進んでいる。新興国はこれからどこに向かっていくのだろうか。新興国ではインターネットユーザーの増加に比例して、デジタルサービスが次々に生まれている。一方で、権威主義国家によるデジタル技術を用いた監視や、過大なプラットフォーム企業の影響力が生まれてもいる。
新興国にとってのデジタル化の可能性は何だろうか。例えばマッチングビジネスは新興国で未だ残る信用の問題を解決し得る。こうした社会課題を解決するビジネスに必要な技術は決して高等ではない。大事なのはR&D&Dの最後のD、Deployなのだ。技術では遅れていても、社会実装であれば新興国でもポテンシャルは大きい。デジタル化においては、過去の開発論で語られた「後発性の利益」が働いていると見ることもできる。先進国で登場したビジネスモデルを利用することで成功しているサービスは多い。
一方、新興国にとってデジタル化のリスクもある。多くのサービスが生まれているとはいえ、クラウドといったインフラ部門は変わらず先進国が独占している。デジタル化が雇用にプラスの影響を与えるとは限らない。ギグ・エコノミーはデジタル・インフォーマル雇用を生み出し、その不安定性は多く批判されている。また、プラットフォームビジネスにおいてはネットワーク外部性が強く働くため、中国を含む先進国企業のサービスによる独占及び優越的な立場を利用した個人情報の侵害が発生するリスクがある。中国のような「デジタル幼稚産業保護」が産業政策として有効なのかもしれない。また、中国はデジタル権威主義的なモデルを各国に輸出し、コロナ禍でこの流れは一層高まるリスクがある。
このようにデジタル化には功罪があるが、この流れに対し日本は何ができるだろうか。今のところ、日本は明確な役割を果たせていないように思える。今後重要なのは社会実装であり、「手を動かし、足を使って」新しいサービスを体験していく姿勢が求められているのだ、と筆者は説く。
一言コメント
個人的に関心の強い新興国×IT論です。必要なのは高い技術力というより、社会実装力というのは大いに同感です。デジタル化は新興国にとって夢の解決策とはなりえないかもしれませんが、それでも何を変える力があると信じます。
2022/5/4