『ノーベル文学賞を読む』

基本情報

書名著者読了日評価分野
ノーベル文学賞を読む橋本陽介2021年9月23日⭐️⭐️⭐️Literature

読書メモ

ノーベル文学賞は言うまでもなく、人類最高の文学者に送られる賞である。一方、日本でノーベル文学賞の受賞者に対する知名度はあまりにも低い。ノーベル文学賞に対しての話題と言えば、日本人が受賞するかと、ノーベル文学賞の政治性への批判くらいである。本書は、文学研究者の筆者がノーベル文学賞受賞者の作品の魅力を語る。
ノーベル文学賞受賞者の作品の特徴の一つは文体にある。カネッティの『眩暈』は、複数の人物の内面が自由間接話法で書かれるが、どの人物の思考も狂気を含んでいる。客観的で正常な語り手はどこにもいない。人間の理性の限界と自己中心性を見事に表現したものだと言えるかもしれない。ガルシア=マルケスの『百年の孤独』もマジックリアリズムとして知られる表現技法に特徴がある。事実が淡々と書かれているが、普通に考えればあり得ないようなことが、当たり前のように登場する。また、時間を越える表現の使い方も見事だ。冒頭からフラッシュフォワードの技法が使われる。物語を通じて同じことが繰り返され、円環的時間を描き出す。
ノーベル文学賞受賞者の作品のもう一つの特徴は文化的越境性とマイノリティの視点である。トニ・モリスンは「黒人」「女性」作家として作品を生み出した。『ビラウド』は奴隷解放直後の黒人女性の物語である。黒人たちがアメリカで人間として生き始める物語を見事に書き上げた。オルハン・パムクは『黒い本』などの中で、西洋と非西洋の間で揺れるトルコ人の複雑なアイデンティティを表現している。
本書では他にも高行健やクッツェー、カズオイシグロと言った作家の作品が紹介されるが、どれも魅力的だ。もちろん受賞者に地域的な偏りは存在しているが、グローバルな文学として評価されている文学には、それだけの理由がある。

一言コメント

ノーベル文学賞作家の作品であっても日本ではほとんど読まれていませんが、どれもが強い魅力を持っているということが分かります。なるべく多く文学の傑作を読んでいきたいですね。
2022/5/4

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