『事実はなぜ人の意見を変えられないのか』

基本情報

書名著者読了日評価分野
事実はなぜ人の意見を変えられないのかターリ・シャーロット2021年8月28日⭐️⭐️⭐️Psychology

読書メモ

現代ほど、「事実は人の考え方を変えられない」ことが痛烈に実感できる時代はないだろう。人為的な気候変動についてさえ、懐疑的な人が多く存在する。コロナウイルスの脅威やワクチンの有効性を巡っては、醜い争いが繰り返されている。
本書はどうすれば人に働きかけ、人類が集合的により賢い選択を行うことができるかを心理学の立場から考察する。
多くの理性的な人々は、適切なデータさえあれば人を説得できると考えているが、事実は全くそうではない。数々の実験が、人は事前の信念に合致するデータのみを受け入れ、そうではないデータについては中身の粗探しを行い、その重要性を否定することを示している。理性よりも強い影響力を持つのは感情、共感の力である。人の脳は感情を同期するようにできていて、感情に働きかけることが重要なのである。
では、どうすれば感情に働きかけ、人を動かすことができるのか。脳科学の知見によれば、何かをしてほしい場合はポジティブなインセンティブを与える戦略、何かをしないでほしい場合はネガティブなインセンティブを与える戦略が有効である。また、それに加えて、相手に主体性を与えることが重要である。人は自らが状況をコントロールできていることに満足感を覚えものだからだ。偏桃体の機能をよく理解することも重要だ。人は不安になる情報を得ることを必死に避けたがる。知らないことが長期的にはマイナスだとしても。ストレス下だと、安全策に傾きがちでもある。偏桃体の機能を知り、ポジティブなメッセージを与えるよう工夫することが重要だ。
もう一つの問いとして、人間は集合的には正しい選択をできるのだろうか。人間は本人が思っている以上に周囲の意見に影響される。個々の意見が独立であれば、意見の集約は平均的により優れた結論を出せるが、意見が独立でない場合、議論によって意見は先鋭化していく傾向がある。その中で正しい答えを見つける一つの方法は、「びっくりするくらい人気の票」である。他人が答えるであろう回答を予想し、それよりも実際の回答率が高かった少数派の意見、恐らくそこには何らか価値のある情報が詰まっていると予想できるのだ。
本書は、集合的な思考という人類最大の武器を有効活用し、社会をよりよいものにしていくうえで必須の知見を提供してくれる。エコーチェンバーによって分断だけが増していく現代、少しでも分断が癒えるきっかけになることを願う。

一言コメント

フェイクが流行し、人々が分断される一方の現代社会で、最も読まれるべき本かもしれません。自身がエコーチェンバーの下に置かれていることを認識し、情動による直感を押しとどめ、対立する意見を含めて熟考する―、全ての人がそのような意識を持っていればもう少し世界はマシになると思うのですが、世の中は中々容易ではありません。
2022/5/4

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