基本情報
書名 | 著者 | 読了日 | 評価 | 分野 |
教養としてのアメリカ短篇小説 | 都甲幸治 | 2021年11月14日 | ⭐️⭐️⭐️⭐️ | Literature |
読書メモ
アメリカ文学からアメリカ社会を読み解く。
まず無視できないのは人種問題である。ポーの『黒猫』には黒人は出てこないが、黒い猫を殺す描写からは黒人に対する深刻な暴力が連想される。「劣った」「暗い」黒人に対置する形で「優れた」「明るい」白人のアイデンティティを築いている。そして、それを維持するために戦争・暴力が繰り返されている―。それがアメリカ社会の特徴の一つであり、文学はそうした「アメリカらしさ」から独立してはいられないのだ、と筆者は説く。
マーク・トウェインの『失敗に終わった行軍の個人史』も、戦争賛美・英雄譚に対する批判と読むこともできる。アンダーソンの『手』では、同性愛を疑われた青年が排除されるが、これは「男らしさ」を強調するアメリカ社会を浮き彫りにしている。フィッツジェラルド作品からは過剰なセルフコントロール信仰がはびこる資本主義社会アメリカが見えてくる。フォークナーの作品では、矛盾を抱える南部が描き出される。オブライエンの『レイニー河で』は、愛国心や誇りの感情と、戦争への忌避感に揺れる若者を描き、ヴェトナム戦争がアメリカ社会に残したトラウマを見事に表現した。
アメリカは一方で強力な社会であるが、その裏には人種差別や行き過ぎた資本主義、南北の分断といった様々な問題・矛盾を抱えている。文学はそうしたものから独立してはいられず、時にアメリカ社会を痛烈に批判してきた。アメリカ社会を知ったうえでアメリカ文学を読むと、よりその価値を理解できるに違いない。
一言コメント
アメリカ文学を読むと、アメリカ社会の矛盾がよく見えてきます。文学はそれ自体娯楽として魅力的ではあるけれども、作家が提起している社会の矛盾に対する提起を分かって読むことで何倍も味わえるように思います。真に文学を楽しむのは大変です。まだまだ教養が足りませんね。
2022/5/4