『消費社会の神話と構造』

基本情報

書名著者読了日評価分野
消費社会の神話と構造ジャン・ボードリヤール2021年8月21日⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️Sociology

読書メモ

全ての消費者は自分で望み、自由に消費を行っていると信じているが、実は消費という記号に従い、差異化を強制されているに過ぎないー。本書は消費社会の本質を見事に喝破したボードリヤール不朽の名著である。
現代社会は豊かであると同時に、永遠の渇望を宿命づけられているかのようだ。人々は十分豊かなはずなのに、新しい物を求め続ける。こうした現実は、資本主義の一時的な機能不良に過ぎず、さらなる成長によって解消するものなのだろうか。そうではない、と筆者は主張する。終わりのない欲求を生み出し、公害や社会不安を引き起こしながら、それさえも内部化して自己拡大を続けることが資本主義的生産システムの本質なのだ、と。
ガルブレイスは「ゆたかな社会」の中で、成長によって人々がアクセス可能な財は増え、豊かな社会が実現すると説いている。不平等や公害はシステムの一時的な機能障害であり、成長と政府による適切な介入によって克服できるものだ、と。ボードリヤールはこの考え方を批判する。豊かさ/貧しさの概念は構造の中で同時に生み出されるものであり、成長が豊かさだけを増すことはない。資本主義システムそれ自体が不均衡と構造的窮乏を内蔵し、それらを生み出し続けているのだ。ある存在が万人のものであり、真に豊かである時、その存在自体は何の価値も持たない。例えば、公害によって安全な空気が一部の人のみの特権になったとき、空気は資本主義システムに取り込まれ、窮乏と同時に空気への欲求を生み出した。これは資本主義システムの成長であるが、人間にとっては全く価値をもたらしてはいない。他の消費についても同じことだ。豊か―すなわち、ありふれていて、全く価値がない―であったものが、資本主義システムに取り込まれ、構造的な窮乏が生まれるとき、豊かさと貧しさが同時に発生する。
ガルブレイスは成長を擁護しつつも、顕示的消費を例に挙げ、真に価値がある消費から人々が阻害されていることを批判しているが、その原因を広告によって真の欲求が歪められているからだと考える。適切な介入によって生産システムの暴走を抑制すれば、豊かな社会が実現できるというわけだ。しかし、ボードリヤールはそうではないと主張する。真の欲求なるものは存在せず、消費者が生産システムに含まれる悪意によって阻害されているわけではない。本質的に「個々の欲求が生産の産物(=生産によって真の欲求が歪められている)」なのではなく、「欲求のシステム自体が生産のシステムの産物」なのだ。
消費者は自由に商品を選択していると信じている。しかし実際は資本主義システムによって生み出された構造的窮乏の中で、システムによって差異化された記号を消費し、作られた欲求を満たしているに過ぎないのである。この主張の説得力を高めるため、本書の後半でボードリヤールは様々な欲求を例に出し、全てシステムに内在するものに過ぎないと主張する。文化や肉体、余暇といった、人間の自発的な欲求と考えられているものも、システムによって差異化を強制されているものなのだ。
ボードリヤールは本書を通じ、現代の消費社会はあらゆるものを生産/消費のシステム内部に取り込み、人々はシステムによる構造物を内面化させられているが、そのことにも気付いていないということを示している。ただ、彼自身はこのシステムから逃れる方法を提示していない。
資本主義システムの恐ろしい力を見事に分析して見せた本書は、変わらず消費社会が主流である現代においても全く色褪せていない。ボードリヤールを越えて、真に人類にとって価値のあるシステムを生み出すにはどうすればよいのだろうか。それは現代人に課せられた一番の宿題なのかもしれない。

一言コメント

ボードリヤールの古典的名著です。消費社会の本質を喝破したもので、深い洞察に満ちた書ですが、極めて難解でした。私の要約力を超えていることは間違いなく、現代にもつながるような学びが多く含まれる本書を是非直接読んでいただきたいと思います。
2022/5/4

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