基本情報
書名 | 著者 | 読了日 | 評価 | 分野 |
生物と無生物のあいだ | 福岡伸一 | 2021年10月3日 | ⭐️⭐️⭐️⭐️ | Science |
読書メモ
熱力学の第2法則―エントロピー増大則―に支配された、常に無秩序に向けて拡散し続ける世界。そんな世界に存在する秩序ある不思議な存在が生物である。
本書は、筆者の研究エピソードを交えながら、そんな生物の本質に迫る。筆者の唱えるコンセプトは分かりやすい。「動的平衡」だ。
生物を構成する物質は日々変化し続けており、動的である。しかし、物質レベルでは動的であっても、総体としては確かな秩序が保たれている。一見矛盾するような「動的」と「平衡」が両立している。これは、分子と比べると生物が遥かに大きく、極小な分子レベルでの絶え間ない拡散、エントロピー増大が、総体レベルの秩序には影響しないことによる。
また、筆者は後半で、ノックアウトマウスの事例も説明する。特定の遺伝子をノックアウトすることで、ある機能を失わせようとしたが、周囲の相補性によって、全く正常に機能しているように見えたのである。
本書を通じてわかることは、全く生物とは不思議な存在だということだ。生物は決して個々の分子レベルに還元できるものではない。エントロピー増大則にしたがって分子レベルでは日々入れ替わっているし、特定分子を失っても総体としては変わらず機能し続ける。「分子の集合を越えた、総体的な秩序を持つ何か」、そんな曖昧なものが生物の本質なのだろう。そこに生物の神秘性を感じてしまうのは、自分の中にも物質的還元論に抵抗したいという思いがあるからなのかもしれない。
一言コメント
生物とは全く不思議な存在です。マクロがミクロの集合を超えた総体である―というのは、生物だけではなく人間社会にも当てはまる事象ではないでしょうか。生物とは部分に還元できない複雑系のシステムで、だからこそ難しく、愛おしいように思います。
2022/5/4