『超加速経済アフリカ』

基本情報

書名著者読了日評価分野
超加速経済アフリカ椿進2021年6月27日⭐️⭐️Development

読書メモ

近年アフリカは劇的に成長している。本書はアフリカの「ファクトフルネス」を分かりやすく解説する。
アフリカは広大で、国によって発展度合いは異なるが、日本の発展の歴史と対応させると、各国でのビジネスチャンスが見えてくる。ラゴスやナイロビは一人当たりGDPが3000ドルに達し、大型ショッピングセンターができ、新車や家電の需要も激増する収入レベルになっている。今後日本の発展の道筋をたどるように、さらなる需要が生まれてくることは間違いない。
リープフロッグという言葉が近年話題だが、アフリカでは従来型のインフラ整備が進んでいない一方で、インターネットが急速に普及し、新しいサービスが生まれている。伝統的な市場や規制がないからこそ、新しいチャレンジをする障壁は非常に低い。電子カルテやドローン輸送といったサービスは、日本よりもアフリカにおいて発展しているのである。
本書は学術書ではなく、ビジネス界に身を置く筆者がアフリカの可能性を一般向けに解説した本である。そのため、ありがちなアフリカ楽観論になっているという印象は受ける。アフリカの発展を妨げる障壁は多く、現実は簡単ではないはずだ。ただし、アフリカへの関心が薄い日本においては、まずはこうした楽観論が大事なのかもしれない。

一言コメント

アフリカの今を語った本です。21世紀はアフリカの世紀と言われて久しく、現にアフリカの経済発展には目を見張るものがありますが、未だにアフリカへの関心は低いのが現状です。アフリカはあまりにも遠く、やはり様々な面で日本と異なるところが多いので、一方でそれは仕方ないように思いますが。21世紀のアフリカの未来をそれほど楽観視してよいのかは分かりませんが、少なくとも偏見を排して今のリアルを知ることは間違いなく必要でしょう。
2022/5/1

『すばらしき新世界』

基本情報

書名著者読了日評価分野
すばらしき新世界オルダス・ハクスリー2021年6月27日⭐️⭐️Literature

読書メモ  ※ネタバレを含みます

人々は皆健康で、煩わしい人間関係はなく、欲望のままに生きられる。困ったときにはソーマが幸福をくれる。ああ、すばらしい新世界。すばらしい新世界?
ここで描かれる世界では、私たちが「人間らしさ」と感じるものが奪われている。子どもは人工的に産まれ、家族は解体されている。連帯は作られたもので、幼少期の洗脳によって考えが限定され、社会の安定が実現している。人間は厳密に階級分けされ、それが身体的・知的能力の差として表れている。文化・芸術も不要なものとして排除され、浅薄な娯楽が中心的になっている。
本書のストーリーは、様々な登場人物を軸に展開する。中心にいるのは、文明の中にいながら文明に適合できなかったバーナード・マルクスとヘルムホルツ・ワトソン、そして野人ジョンである。シェイクスピアを暗唱できるジョンは、現代でいえば文明的な人間だが、作中では野蛮な見世物としてしか扱われない。自然な愛情を求めることも狂っているとみなされる。そして最後には悲惨な結末を迎える。彼のような人間が「野蛮」として排斥される、すばらしい「文明」の世界―これ以上ないほどの皮肉ではないか。
ハクスリーの描いたディストピアはリアルで、現代まで読み継がれているだけのことはある。幸福薬ソーマや、遺伝子改変が技術的に可能になりつつある現代では、本書はより一層重要度を増している。このディストピア小説を通じ、ハクスリーは「人間らしさ」とは何だろう?どういう社会を望むのか?ということを問いかけたかったのかもしれない。

一言コメント

超有名なディストピア小説です。皆満足しているのに、これだけ最悪な世界を描けるのは見事です。すばらしき新世界というタイトルの皮肉が刺さります。幸福薬ソーマもおとぎ話の世界ではない現代、改めて読まれる価値がある作品です。
2022/5/1

『三体問題』

基本情報

書名著者読了日評価分野
三体問題浅田秀樹2021年6月26日⭐️⭐️⭐️Mathmatics

読書メモ

三つの天体の動きを計算することはできるか―それが三体問題だ。二体問題はニュートンの万有引力理論によって(ほぼ)解かれ、その後ベルヌーイの手によって理論として完成した。それでは三体問題も二体問題と同じように解けるのか?そうではない。三体になったとたんに問題は恐ろしく難しくなる。
三体問題となると、運動方程式に他二天体の位置が入ってくる。加速度は位置の二階微分であるが、このように複雑に絡み合った微分方程式を解くことは極めて困難だ。それでも過去の賢人たちは解に近づこうと努力してきた。オイラーは天体の直線状の配置を仮定し、制限三体問題における直線解を求めた。ラグランジュも制限三体問題のラグランジュ解を求めた。こうした解は現在の宇宙開発にも利用されている。
そうした努力はあっても、運動方程式から直接的、解析的に三体問題の一般解を求める困難さが軽減されたわけではない。別のアプローチとして、近似解を求めることはできないのか。ポアンカレによると、そうした逐次解、級数解でさえ存在しない。そうなると、三体の動きを十分後まで予測することは不可能だということだ。初期条件のわずかな違いが大きな差異を呼ぶ、カオス理論の世界になる。
では、20世紀以降三体問題はどのように展開したのか。一つ目が特殊解の発見。例えば8の字解という不思議な解が存在し得ることが発見された。二つ目は一般相対性理論の登場。時空が相対的であることを考慮して三体問題が組み立てられ、修正された三角解や8の字解が発見されている。最後の一つは位置天文学の発展だ。系外惑星の観測や重力波の観測が記憶に新しいが、どんどん新しい天文学が生まれてきている。
簡単そうに見えて難しい三体問題は、今後どこに向かうのだろう。画期的な理論によって解析的に解かれる日は来るのか。観測によって未知の軌道が発見されることはあるのか。三体問題がどのように進展するのか楽しみで仕方ない。

一言コメント

二体問題は簡単なのに、三体問題は極めて難しいというのは不思議に思えますが、2と3を同じように考えてしまうのが線形思考に囚われているのかもしれません。今なお三体問題が研究されているというのは不思議でなりませんが、今後どんな進展があるのか楽しみになりました。
2022/5/1

『服従の心理』

基本情報

書名著者読了日評価分野
服従の心理スタンリー・ミルグラム2021年6月19日⭐️⭐️⭐️Psychology

読書メモ

ミルグラムの服従実験―心理学史に名を残す伝説の実験―の実施者が、実験の裏側、結果について語る。服従実験が一般社会にもたらした影響は計り知れない。全くの一般人が権威に服従し、残酷な行為に走る過程をまざまざと提示して見せたのだ。ハンナ・アーレントの言う「悪の陳腐さ」を実証するような結果と言える。
ミルグラムの服従実験自体の内容については、あまりにも多くの書籍で引用されているため、特に新しい発見があるわけではない。驚くべきはむしろ、その実験計画の精緻さである。いかなる場合に人が権威に服従し、いかなる場合に抵抗できるのか。それを検証するため、ミルグラム実験では、参加者が実施するタスクや身体距離、権威との役割関係、第3者の配置などを変えながら、様々なパターンの実験を行っている。一貫して言えることは、人は権威に容易に服従するということ。しかし、そうした追加実験は、抵抗してくれる第3者がいれば、声を上げられる人が多い、ということも明らかにしてくれる。
本実験は社会に大いなる影響を与えたが、問題が全くなかったわけではない。参加者にかなりの心理的な負荷を強いる実験は倫理的な批判を免れ得ない。解説で語られているように、個人によるある種英雄的・自己犠牲的な抵抗がなければ服従とみなすという解釈は、あまりにも厳しすぎるのではないか。実際には権力に対抗するのは、個人ではなく社会であることが多いから。とはいえ、権威に服従しがちな人間の心理的な傾向を実証した実験として、その意義が減じることはない。権力の暴走を防ぐために、現代でも必ず知っておくべき知恵の一つなのではないだろうか。

一言コメント

ミルグラムの服従実験は一番有名な心理学実験かもしれません。ただ、その内容を勉強したことはあったとしても、実際にミルグラムが書いた本まで読んだことがある人は少ないでしょう。この本を読む限りでは、ミルグラムの実験の精緻さに驚かされます。ただ、ミルグラム実験に対しては諸々の批判がなされているのも事実であり、結果を100%真に受けていいかと問われると疑問ではあります。その点を念頭に置きながらであれば、非常に面白い本です。
2022/5/1

『社会学用語辞典』

基本情報

書名著者読了日評価分野
社会学用語辞典田中正人, 香月孝史2021年6月19日⭐️⭐️Sociology

読書メモ

社会学の用語をイラストを用いながら分かりやすく解説する。最初に社会学を成立させたのは、コントやスペンサー、マルクス、デュルケームら。彼らは「社会は実在する」前提に立ち、社会の単線的な発展や社会に規定される個人を論じた。自殺という個人的に見える現象でさえ、社会の力を受けているのだ。この思想はマクロ社会学としてパーソンズの機能主義に受け継がれる。もう一方の思想がミクロ社会学で、ウェーバーは人間の行為によって社会が形作られると論じ、ジンメルは社会とは人間関係の集まりだと論じた。
リオタールが大きな物語の終焉、ポストモダンを宣言した時、マクロな社会を語るマクロ社会学は力を失ったのではないか。その帰結が「個人」に過度に注目する新自由主義であり、サッチャーの「社会はない」という言葉だったのではないか。大きな物語を失い、自由を強調した果ては、バウマンの言うように、リキッド・モダニティだ。
人類はどのようにして、社会を取り戻すことができるだろうか。そのヒントが、ポストモダンを超えた思想の中にあるように思える。ルーマンはミクロ社会学とマクロ社会学を発展的に統合し、個人の行動と社会は相互作用の中で変化していくと主張した。ギデンズは、現代はポストモダンではなく「再帰的近代」の時代であって、変化を続けているのだと主張する。
ポストモダンの先に、人類がよりよい社会を作る上での道を示す社会学は、悲惨な結末を招いた新自由主義の基となった経済学以上に重視されるべきなのではないだろうか。
社会学について大きな流れの理解が合っているかは自信がない。本書には当然それ以外の重要な思想(構造主義、ジェンダーなど)も多く掲載されている。ただ、少なくとも一つ間違いないと思うことは、「社会はある」ということ。そして、現代ほど社会学を学ぶべき時代はないということだ。

一言コメント

あまり触れてこなかった社会学の学び直しです。当時の読書メモでは、身の程を弁えずに社会学の大局的な流れをまとめようとしていますが、果たして合っているのかどうか、今になっても分かりません。社会とは複雑なもので、それほど分かりやすい流れなどというものはないのかもしれませんが。当時も書いているように、社会学ほど学ぶべき学問はないと思うのですが、近年では「実践的」な経済学に押されているように思えるのは残念でなりません。
2022/5/1

『デジタルエコノミーはいかにして道を誤るか』

基本情報

書名著者読了日評価分野
デジタルエコノミーはいかにして道を誤るかライアン エイヴェント2021年6月19日⭐️⭐️⭐️IT

読書メモ

デジタルエコノミーはどこに向かうのだろう。誰もが働かずに豊かな生活を送れるユートピアか、一握りの資産家と多くの無産階級に分かれるディストピアか。本書はデジタルエコノミーの未来について考察していく。
近年のデジタル技術の発展はまさに革命的である。そんなデジタル技術は人類の生産性を高め、豊かな生活を提供する―、と思いたいが、現実はそんなに単純ではない。雇用にはトリレンマがあり、①高い生産性と高い給料②自動化への抵抗力③大量の労働者を雇用する可能性、の3つを同時に叶えることはできない。だから、自動化されない高生産性の仕事はごく一部の高熟練労働者に独占される。自動化により、大量の雇用を必要とする仕事は減り、低熟練の労働者は低生産性の仕事を奪い合うようになっている。
こうして労働余剰が生じた世界であっても、公正にお金が分配される可能性はあるのだろうか。経済学によれば、分配を決めるのは希少性である。今最も希少性があり、価値を生んでいるものは、労働でも資本でもなく、企業の社会関係資本だ。こうした企業文化という価値は、社員一人一人が保持できるものではない。だから必然的に経営層がその恩恵を独占することになる。このメカニズムは国内の格差だけではなく、国際的な格差をも生み出している。十分な社会関係資本がない発展途上国は、どんなに優秀な人間であっても十分な報酬を得られないのだ。
デジタルエコノミーが労働力の余剰と社会関係資本から得られる恩恵の独占という二つの経路を通じて、格差を拡大し、世界に不公正にしてしまうものだとするならば、何をするべきなのか。それは、デジタルエコノミーの恩恵を幅広くいきわたらせるための再分配にほかならない。我々が、「同じ人たち」と考える範囲を少しでも広げ、なるべく多くの人たちと多くを分かちあうこと。筆者の主張は最もだ。尤も、それが何よりも難しい。
人々に働きがいのある仕事を用意しつつ、デジタルエコノミーの恩恵を幅広くいきわたらせる―今世紀最大のテーマになるに違いない。今後も考え続けていきたい。

一言コメント

デジタルエコノミーによって人類の生産性は上がっているのに、人々の生活は豊かにならず、格差は拡大しているのが現状ですが、本書はその理由を語ったものです。ケニアのM-PESAが農家の人々の生活を変えたように、本来テクノロジーは人々のためになるはずです。皆が幸せになるためのテクノロジーのあり方、今一番ホットなテーマだといっても過言ではないかもしれません。
2022/5/1

『人間と社会を変えた9つの確率・統計学物語』

基本情報

書名著者読了日評価分野
人間と社会を変えた9つの確率・統計学物語松原 望2021年6月19日⭐️⭐️Mathmatics

読書メモ

確率・統計が発展していく過程を9つの物語から解き明かす。確率の始まりはパスカルとフェルマーの往復書簡だ。ギャンブルを途中で中断した後、どのように掛け金を分配するのが公平かという疑問から、今でいう確率理論の先駆けが生まれた。その後、ベルヌーイやド・モアブル、ベイズを経て、ラプラスによって古典確率論は一つの完成を見る。ここで最も重要な分布は正規分布だが、ガウスは誤差の仮定のみから正規分布を導出した。
その後は現代統計論である。ケトレー、ゴルトン、ピアソン、ゴセット、フィッシャー、ネイマンらだ。統計的仮説検定やt分布など、現代統計論が少しずつ作られていった。
現代人からすれば、起こっていないことを考える確率の考え方は当たり前である。が、それは決して当たり前ではなかったのだ。経験から真理を見出そうとする統計もまた、長い歴史を経て生まれてきたものだ。
日々使っている確率・統計の裏にはストーリーがある。ストーリーを無視して手法だけ使うべきではない、筆者が主張したいのはそのことなのだろう。

一言コメント

現代人にとって確率・統計の考え方は当たり前ですが、その考え方が作られるまでには長い歴史がありました。偉大な先人たちに感謝です。
2022/5/1

『〈効果的な利他主義〉宣言! ――慈善活動への科学的アプローチ』

基本情報

書名著者読了日評価分野
〈効果的な利他主義〉宣言! ――慈善活動への科学的アプローチウィリアム・マッカスキル2021年6月19日⭐️⭐️⭐️Philosophy

読書メモ

この世界のために何かいいことをしたい―多くの人が持っている思いだ。しかし、社会貢献活動は時として全く意味がないばかりか、害をもたらすことがある。プレイポンプのモデルは本当に素晴らしく聞こえる。「子どもたちの遊びの力を水汲みに生かし、女性を水汲みの負担から解放しよう―」と。その美しいモデルの効果は正しく測定されないまま普及が先行した。実際にはかえって女性の負担が増してしまっていたのだ。
筆者はこうした状況を憂い、こう主張する。「利他的な活動をしよう、ただし、有効に」と。本書は、有効に利他的な活動をするうえで考えるべきことを提示する。具体的には、
①何人がどれくらいの利益を得るか?
②あなたにできるもっとも有効な活動か?
③この分野は見過ごされているか?
④この行動をとらなければどうなるか?
⑤成功の確率は?
こうした疑問はどれも大切で、自分の時間とお金を使って利他的な活動をしたいのであれば、確実に向き合わなければならないことだ。
有効に利他的な活動を行うという本書の主張には共感する。一方、寄付先の選定に個人的な要因(心理的な近接性など)が入ることは仕方がないし、社会的な活動が純粋に目に見える結果のためだけになされるべきではないとも思う。そうした違和感はありながらも、せっかく社会を大きく変えられる力を持ったのだから(先進国の人間は皆その力を持っている)、本書の考え方を指針として、社会をよくするために何をするべきか考えたいと感じる。

一言コメント

世界には大きな格差があるということは、今我々先進国人が稼いでいるお金でかなり多くの人を救えるということでもあります。筆者の言う通り、効果的に利他的でありたいですね。
2022/5/1

『わたしたちのウェルビーイングをつくりあうために』

基本情報

書名著者読了日評価分野
わたしたちのウェルビーイングをつくりあうためにドミニク・チェン, 渡邊淳司2021年6月13日⭐️⭐️⭐️Psychology

読書メモ

Well-being―よく生きる―とは何だろう。様々な心理学の研究により、Well-beingを構成するとされる要素は明らかになってきている。そこには自律性や有能感と言った個人の内面に閉じた要素に加え、他者との関係や、社会貢献などの超越的要素も含まれる。Well-beingの研究が進んでいる一方で、伝統的なWell-being観は個人主義的な傾向が強すぎるという問題がある。
本書は、日本という文脈を踏まえながらWell-being概念を見直し、個人としてだけではなく、共として(コミュニティとして)、Well-beingを達成するにはどうすればよいかを考察する。その上で特に重要となるのがテクノロジーの活用の仕方だ。SNSやターゲティング広告は、人間の注意を奪い、フィルターバブルなどの悪影響を与えている。人の自律性を保ちながら、倫理的な方向にナッジする。それによりWell-beingに寄与するようなテクノロジーの活用の仕方はあるだろうか。
本書で例として挙げられているのは、オンライン通話中に状況に合った表情に変化させる「FaceShare」や、「弱いロボット」、個人データの利用規制などである。テクノロジーによってWell-beingをデザインすること。Well-beingを考える上では、日本の集産主義を考慮し、人とのつながりを大事にするような仕組みにすること。これからの時代に非常に重要な教訓であるに違いない。

一言コメント

Well-beingと言えばSDGsの重要テーマでもありますが、それを構成する中身については数々の研究が蓄積されてきています。その中でも、本書で述べられていた、「共として」というのは一つ重要な視点であるように思います。本書の後半ではWell-beingを実現するためのテクノロジーについて語られていますが、一応にもIT業界に身を置くものとして、関心を持って見ていきたいところです。
2022/5/1

『ビッグの終焉: ラディカル・コネクティビティがもたらす未来社会』

基本情報

書名著者読了日評価分野
ビッグの終焉: ラディカル・コネクティビティがもたらす未来社会ニコ メレ2021年6月13日⭐️⭐️⭐️Economics

読書メモ

ラディカル・コネクティビティにより、ビッグが終焉する。全てのビッグが―。
ニュースは巨大メディアに支配されていたが、個人が直接発信する手段が増えたことで、ビッグニュースは崩壊しつつある。情報の分散はチャンスではあるが、信頼できる情報がない不安定な時代にも向かいうる。政治面でも、草の根の政治活動が増え、ビッグパーティが崩壊する。絶対的なエンターテインメントと呼べるものはなくなり、ビッグファンの時代は、多くの発信者・少ないファンの時代にとって代わられる。政府や軍でさえ、ウィキリークスやサイバー攻撃によって脅かされつつある。ビッグマインドも崩壊し、絶対的に信じられる権威はもはや存在しない。オープンソースや生産の民主化・分散化により、ビッグカンパニーもこれから続くとは限らない。
こうしたビッグの崩壊のシナリオは説得力があるように見えるが、2021年から振り返ってみると、思っていたよりビッグはしぶとかったのかもしれない。確かに、ビッグニュースは崩壊しかけているが、企業や政府といった組織は変わらず力を持っている。2021年になってなお、社会現象とも言えるほどのビッグエンターテインメントが生まれた。筆者はテクノロジーの力を過大評価していたのかもしれない。どれだけ繋がりがあっても、技術の力でゲームのルールを変えられる個人は、決して多くはない。ビッグの権威に追従する無力な大衆はきっとビッグの最大の味方だ。
予想の全部は当たっていない。それでも、ラディカル・コネクティビティの革命的な力を説いた本書は、これからの時代を考える上重要であり続けるに違いない。

一言コメント

かなり前に読んだ本の再読です。2021年になって、その後の展開を知ってから読み直すと、また新たな感想を持ちました。筆者は「ネットワーク」によってビッグが崩壊すると述べていますが、現実はそれほど単純ではなかったというのが今時点での感触です。ネットワークによって個人が力を持つのではなく、ネットワークを支配するIT企業や、ネットワークを規制する権威主義的な政府、世論に影響を持つ組織の力こそが強く残っているように思います。未来を予想することは難しいですね。
2022/5/1