基本情報
書名 | 著者 | 読了日 | 評価 | 分野 |
白鯨(上) | ハーマン・メルヴィル | 2022年7月17日 | ⭐️⭐️⭐️⭐️ | Literature |
白鯨(下) | ハーマン・メルヴィル | 2022年7月31日 | ⭐️⭐️⭐️⭐️ | Literature |
読書メモ ※ネタバレを含みます
(上)
Moby-Dick、白鯨―それは一匹の鯨との戦いを描いた物語であるが、そこにあるのは一つの小宇宙であると言っても過言ではないだろう―。
本作の主人公はイシュメールという名の若者だ。彼は外の世界見たさに捕鯨船に乗ることを決意し、捕鯨の町ニュー・べドフォードを訪れる。そこでクィークェグという”食人種”と心を通わせたイシュメールは、彼と共に捕鯨船ピークォド号に乗り込み、大海に漕ぎ出していく。しかし、出航して時間が経ってようやく船員の前に姿を現した船長エイバフは、自らの足を食いちぎったMoby-Dickなる白鯨に異常なまでの復讐心を燃やす男だった―。彼の狂気的な復讐心はやがて船員にも伝播していくが、大海の中すぐにはMoby-Dickには出会えず、嵐の前の静けさというばかりに淡々と捕鯨船は進んでいく。
その間、捕鯨に関してあらゆる観点からの知識が語られる。聖書の物語や鯨の分類学、各種文献からの引用など、その知識の幅広さには感嘆させられる。
鯨を特に愛するものでない限り、本筋に関係のない話がひたすら展開されるのを読むのは苦行でさえある、が―、少しずつ、少しずつ引き込まれていくのだ、捕鯨という一つの世界に。
(下)
下巻ではいよいよピークォド号が鯨と出会い、実際に鯨を仕留めるところが描かれる。巨大なる鯨という存在を、ボートで取り囲み、銛を打ち込んで殺していく様子はまさに生命を賭した争いと言う他ない。その後は鯨の解体について詳細に語られる。鯨の巨体を分解していくと、当時の捕鯨の目的であった鯨油が大量に手に入る。生々しい描写から、鯨という存在の巨大さがこれでもかというほど伝わってくる。
そんな中、ピークォド号はいくつかの捕鯨船と出会い、確かに、少しずつ、Moby-Dickに向けて近づいていた。復讐に狂うエイバフは台風に向かって舵を切るなど、狂気の命令を下し、船員の命を危険にさらす。理性的な一等航海士スターバックはエイバフを殺害することまで考えるが、最後には思いとどまる。
そして、ついに出会ったMoby-Dick。複数日に及ぶ追跡劇の中、命を懸けた争いが続く。が、Moby-Dickはあまりにも強大な存在であった。最後にはピークォド号がMoby-Dickによって容赦なく破壊され、エイバフやスターバック、クィークェグを含めた乗組員たちは全員海の藻屑となって消えた――、ただ一人戦いの途中で跳ね飛ばされ、ボートで漂った末に救出された主人公のイシュメールを除いて。
この物語は鯨への復讐に燃えた狂気の男エイバフの戦いと破滅を描いたものである、が、本筋を外れ捕鯨に関してあらゆる知識が語られるのが何よりの特徴である。そのせいでとにかく長い物語を読むのは苦しいが、捕鯨についての生々しい知識のおかげで、21世紀に生き当時の捕鯨の状況を全く知らない人間でさえも、捕鯨という小宇宙にこれでもかというほど取り込まれてしまう。それゆえ最後のMoby-Dickとの戦いのシーンがド迫力で心に残るのだ。これほど長い読書を乗り越えたからにはこの本は名作に違いないと思いたがる人間心理のバイアスはあるかもしれないけれど、決して全員にお勧めしたい本というわけではないけれど、それでも世界的な傑作であるということは間違いないと思う。
一言コメント
こんなに長くて退屈な作品、一生読まないと思っていました。気が向いてしまったので挑戦。さすがに脱線が多くて半分くらいは読んでいて苦行なのですが、やはり骨の髄まで捕鯨ワールドに引き込まれた後の後半の畳みかけは圧巻です。かなりの洋書ファンだけに読むことをお勧めします。
2022/10/2