『だからフェイクにだまされる』

基本情報

書名著者読了日評価分野
だからフェイクにだまされる石川幹人2022年5月22日⭐️⭐️Philosophy

読書メモ

現代ほどフェイクが猛威を奮っている時代はないだろう―。本書は心理学の観点からフェイクに騙される理由を解説したものである。
1点目は見かけが作るフェイクである。人は見かけがいい人の言葉を必要以上に評価してしまうが、現代は見かけを装う演出に溢れている。それを見抜くのは容易ではないが、演出による影響を割り引いて考える必要があると筆者は説く。
2点目は共感に訴えるフェイクである。人間は古代の狩猟採集の時代から、他人と協力するために共感能力を発達させてきた。人間関係が希薄になり、以前のように評判が共有されない現代においては、人間の共感力をフェイクに利用されるリスクが高い。共感が利用されていないか問う必要がある。
3点目は言語が助長したフェイクである。言語は単なる意思疎通手段を超えた力を持っており、人に虚構を植えつけ、行動を変えさせることさえできるのだ。言語の限界を知る必要がある。
4点目は自己欺瞞に巣くうフェイクである。人には自己肯定感が必要だが、これほど多くの人と関わる世界で自己肯定感を持ち続けるのは容易ではない。それゆえ自己欺瞞が生まれるのだ。承認欲求を満たしたいという気持ちは、SNS上でフェイクに利用される可能性がある。
5点目は科学の信頼を利用したフェイクである。人間には確証バイアスがあり、自分の思い込みと一致するような科学的な装いをした主張を安易に信じてしまいがちである。さらには、最新の科学理論は日々更新されており、一般市民に伝えるのは容易ではない。
6点目は誤解から生じるフェイクである。誤った情報が飛び交う現代だが、見知らぬ人同士、一度生まれた誤解を訂正することは容易ではない。すぐに誤解を基に人々は先鋭化してしまうのだ。メディアの信頼性と自由のバランスの在り方も再考するべき時だ、と筆者は主張する。
最後7点目は結束を高めるフェイクである。人は誰もが集団に所属する。集団に対する共通的な敵の存在をほのめかされたりすると、人の部族意識があおられ、先鋭化しがちである。部族意識を利用されていないか内省する必要がある。
フェイクを心理学的な観点から解き明かしていくと見えてくることは、我々が先史時代から生き抜くために育んできた心理や行動基準が、現代の自由で多様化した社会構造とミスマッチを起こしており、その部分にフェイクがつけ込んできている、ということだ。フェイクを撲滅するのは容易ではないが、本書のような知見が、少しでもフェイクの撲滅に寄与することを願いたい。

一言コメント

これほどフェイクが流行っている時代は過去ないでしょう。自分自身フェイクに注意しなくてはというのは改めて思います。一方、こんな本もフェイクに騙されて過激化している人々にはきっと届かないのでしょうね、と思うと無力感にかられてしまうのです。そんな中でもできることをしていくしかありません。
2022/10/2

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