基本情報
書名 | 著者 | 読了日 | 評価 | 分野 |
アルジャーノンに花束を | ダニエル・キース | 2022年8月20日 | ⭐️⭐️⭐️ | Literature |
読書メモ ※ネタバレを含みます
主人公チャーリー・ゴードンは知的障害を抱え、32歳になっても幼児並みの知能しか持っていない。本書はそんな彼と知能を巡る物語である。
チャーリーはベイカリーで働く日々を送っていた。周囲の人間はチャーリーを馬鹿にしているが、彼自身はそれに気が付かず、彼らをとても賢く優しい友達たちであると考えている。「友達」とそれなりに幸せな時間を過ごす一方で、彼は「頭がよくなりたい」とも願っていた。
そんな中、チャーリーはストラウス博士の「頭をよくする」実験に被験者として参加する。この物語は実験に参加したチャーリーの「経過報告」という名の独白によって進んでいく。
実験当初のチャーリーの文章は支離滅裂で、誤字も非常に多い。一方で、「友達」を素晴らしい人たちだと思う純粋さを持っていた。そんなチャーリーだが、実験は一時成功しているように見え、どんどんその知能を高めていき、文章の内容も高度になっていく。ただ、彼はその一方で見たくなかったものも見えるようになっていった。「友達」は自分のことを馬鹿にして笑っていた。彼が他の人と同じようにできないことに耐えられず、家を去った母の記憶がよみがえった。同時に彼は愛を知り、アリス・キニアン先生のことを深く愛するようになる。しかし、彼の知能は高くなりすぎて、彼女と一緒に居続けることはできない。
高い知能を持つに至ったチャーリーだが、同じく実験を受けていたネズミのアルジャーノンの様子から、今回の実験の理論的限界を知る。確かに知能は高まっていくが、その後はまた知能が失われるのだ。彼の知能は急速に失われていき、キニアン先生との関係も終わってしまった。その中で「友達」が本当の意味で「友達」であるとチャーリーが感じられたのは数少ない救いであるかもしれない。再度文章は元の状態に戻っていく。「アルジャーノンのおはかに花束をそなえてやってください」という最後の言葉がただ切なく響く。
この物語は知能を巡る切ない物語だ。「頭がよくなれば幸せになれる」、チャーリーのその期待は、知能の高まりとともに人の醜さが見えるようになったことで裏切られた。高い知能の中、自らの知能が再び失われる避けがたい未来を知ったチャーリーの内心はいかばかりか。それでも最後には、今までのように「友達」に愛されるチャーリーの姿が救いになった。
知能によって容赦なく人が評価される現在において、この物語が突きつけている問いはなお重い。
一言コメント
知能を巡る悲しい物語です。知能によって厳しく評価されるこの世界で、この作品をどう受け止めるべきか、未だに分かっていません。
2022/10/2