『怒りの葡萄(上)』『怒りの葡萄(下)』

基本情報

書名著者読了日評価分野
怒りの葡萄(上)スタインベック2022年3月12日⭐️⭐️⭐️⭐️Literature
怒りの葡萄(下)スタインベック2022年3月12日⭐️⭐️⭐️⭐️Literature

読書メモ ※ネタバレを含みます

(上)
時は1930年代、大恐慌期のアメリカ。オクラホマ州を砂嵐が襲い、全ての農地が荒廃した。そんな中、ジョード一家は長年暮らした土地を離れ、新天地を求めて西に向かう。その道中は決して容易ではなく、土地を離れたじいちゃんは、故郷に魂を残したまま移動中にあえなく死んでしまう。それでも、一家は同じ境遇の人々と支え合いながら進んでいく。西へ西へ。カリフォルニアは理想郷、美しい大地で、桃やオレンジを摘む仕事が沢山あり、金払いもいい。そんな夢を追って。
やっとのことで到達したカリフォルニアはそんな理想郷ではなく、労働者の搾取と警官からの暴力・差別に溢れた地獄だった。一家の苦しみは続く。

(下)
やっとのことでたどり着いたカリフォルニアは、不当な低賃金労働で労働者が搾取される地獄だった。ジョード一家もまた、必死に日銭を稼ぐ日々を送る。野営地は警察によって焼き討ちされ、トムの身代わりで元伝道師ケイシーは捕縛される。シャロンの薔薇の夫であるコニーは現実に耐えられず、消息を絶つ。一家が徐々にバラバラになっていく中、官営野営施設での暮らしは一時の救いとなる。そこでは、人々が助け合って、人間らしい暮らしを行っていた。それでも、官営野営施設での暮らしも長くは続かない。一家は再び仕事を求めて移動するが、シャロンの薔薇は死産し、雇い主の不当行為にストライキで抵抗していたケイシーはトムの前で無残にも殺された。トムもケイシーの遺志を継いで抵抗運動に身を投じる。
残されたお母、お父、ジョン叔父、アル、シャロンの薔薇、子供たちの生活は楽にはならないが、それでもお母を中心に各自が必死に働き、生き続ける。自分たちも苦しい中、最後には、自分たちと同じような境遇で死にかけていた見ず知らずの男を、シャロンの薔薇が自らの母乳によって救う。
この物語は極めてキリスト教的である。キリストと同じイニシャルを持つジム・ケイシーは自己犠牲の精神を体現しているし、一家の生き方はまさに「隣人愛」だ。母乳によって人を助けるというのは、”ローマの慈愛”とよばれる物語を思い起させる。とはいえ、この物語は、キリスト教文化圏にいない人間に対しても深い感慨を抱かせてくれる。それは、そこに描かれている家族愛や隣人愛というものが、人類に普遍的なものだからだろう。不条理な現実の中支え合って生きる家族の物語―と言ってしまうと価値が矮小化されてしまうようにも思えるが、深く心に残る力を持った作品だった。ノーベル文学賞作家の力を見た。

一言コメント

大恐慌時代のアメリカを、一家が助け合いをしながら生き延びていく物語です。そういってしまうとありがちな内容に聞こえてしまいますが、さすがスタインベックと思わせてくれる力を持った作品です。
2022/10/2

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