基本情報
書名 | 著者 | 読了日 | 評価 | 分野 |
月と六ペンス | サマセット・モーム | 2022年7月9日 | ⭐️⭐️ | Literature |
読書メモ ※ネタバレを含みます
架空の天才画家チャールズ・ストリックランド。本作品は小説家の主人公がその生涯を語ったものである。
主人公はストリックランド夫人に招かれた夕食会でストリックランドに出会うが、その時の彼は証券取引所に勤める冴えない男で、傍目からは、十分な収入と魅力的な妻、子どもたちを持つそこそこ幸福な人間に見えた。が、事態はその後急転する。ストリックランドは突如として妻子を捨て、画家の道に進むためにパリに移住したのだ。主人公は彼を追いかけるが、幸福な生活を全く未練なく捨てる彼の態度を全く理解できないまま終わる。
その後数年して、お人好しの画家の友人ストルーヴェを介して、主人公はストリックランドに再会する。ストリックランドは変わらず誰にも見せるでもなく絵を描き続けていた。ストルーヴェだけは彼の才能を見抜き、彼に支援を申し出ていた。そんな折事件が発生する。ストルーヴェ夫人ブランチがストリックランドを愛してしまい、ストルーヴェを捨てて去っていく。その後ストリックランドはブランチを捨て、世を儚んだブランチは自ら命を絶つ。ストリックランドはその期に及んでなお罪悪感を感じてもいなかった。
それからが年月が経ち、ストリックランドは稀代の天才画家ともてはやされるようになり、主人公はストリックランドの足跡をたどり、彼が晩年を過ごしたタヒチを訪れる。そこで彼は現地の女性と結婚し、絵を描き続けた。
主人公の目から書かれるストリックランドの姿はつかみどころがない。幸福と言える生活をあっさり捨て、周囲の人間を不幸にさせてなお、誰に見せるでもない絵をひたすら描き続けた。生前はその絵も全く評価されなかった。ただ表現したい何かがあったに違いない。
この作品は、「どこかにいたかもしれない天才芸術家」の物語だ。その行動は周りからは理解されないし、作品の評価も受けられない。ただ激情だけがそこにある。そうした人たちのほとんどは歴史に埋もれているだろうと考えると、一種の切なさを感じずにはいられない。ただ、そうした架空の天才を作り上げたのはまた見事な所業と言えるだろう。
一言コメント
天才によって振り回される周りの人の人生を思わず考えてしまって、この作品は個人的にはあまり好きではないです。そんな登場人物に感情移入せずに読めば面白いのかもしれませんが。他の人の感想も気になるところです。
2022/10/2