基本情報
書名 | 著者 | 読了日 | 評価 | 分野 |
現代美術史 | 山本浩貴 | 2022年1月16日 | ⭐️⭐️⭐️ | Art |
読書メモ
筆者が冒頭で述べている通り、現代美術史を書くことは難しい。全く現代美術とは掴みどころのないもので、そもそもいつから現代美術が始まったのか、現代美術とそうでないものの違いは何なのかさえ釈然としない。様々な芸術運動が展開され、何か一つの物語を描き出すのは困難だ。本書はそんな中でも様々な切り口から現代美術史を描き出そうと試みたものである。まずは未だに美術史の主流を占める欧米の美術史から。戦後の現代美術に一つ大きな流れがあるとすれば、芸術概念の拡大をおいて他にはない。美術は視覚的で平面的なものから、立体的で五感に働きかけるものとなった。ブリオーの『関係性の美学』を受けて、関係性が注目され、美術は社会と関わる実践となった。日本でも欧米を追うように戦後様々な前衛的芸術運動が展開された。1990年台以降は、「大きな物語の終焉」の中で、多様なアートプロジェクトが展開されている。中でも筆者が注目するのがトランスナショナルな視点である。もはや美術は国民国家に閉じたものではあり得ない。戦後植民地解放の流れの中で、美術は抑圧されていた人々の声として表現された。こうした美術は時として無視されてきたが、支配構造を明らかにする意味で果たして役割は大きい。それは東アジアにおいても同様である。日本による植民地支配の遺産として、非支配地域で様々な美術作品が作られた。美術は明るい面だけを持つわけではない。最後の章で語られる通り、過去戦争に加担したという歴史も一方で持っている。現代美術史を完璧に描くことは不可能で、筆者は本書を通じて現代美術のほんの一部を表現しているに過ぎないだろう。しかし、それだけでも現代美術の豊かさがよく伝わってくる。美術は常に明るい訳ではないが、抑圧された人々に寄り添いながら、時に社会を変える力を持っている。そう信じたい。
一言コメント
現代美術はそれでも分からないのですが、分からないなりに楽しみたいなとは思います。現代美術を見る感覚も高めていきたいですね。
2022/10/2