基本情報
書名 | 著者 | 読了日 | 評価 | 分野 |
誰も農業を知らない | 有坪民雄 | 2022年1月10日 | ⭐️⭐️⭐️ | Business |
読書メモ
日本の農業は生産性が低く、改革が必要だ―、巷ではそんな言説が溢れているが、提案される農業改革案は農家の実態を反映していないものがほとんどである、と、筆者は主張する。本書は、プロの農家である筆者が、農業の今と未来について語りつくしたものである。
現在農業は革命に直面している。その一つはIOTであり、データを活用した精密農業や、農作業の自動化が可能になってきている。もう一つは遺伝子組み換え・ゲノム編集技術であり、作物を病害から守り、生産性を大きく上げる可能性を秘めている。一方でそのようなポジティブな変化もあるが、現在の日本の農業が課題を抱えているのも事実である。
そうした中で、多くの論者が農業改革を叫んでいるが、彼らには複雑で多様な農業の実態が全く分かっていない、と筆者は主張する。例えば「農業にビジネス感覚を」というのはよく述べられる言説だが、農業を大規模化すれば生産性が上がるというのは思い込みに過ぎず、大規模農業は価格下落のリスクを負う面もある。六次産業化で売れる商品を作れるのはほんの一握りに過ぎない。農協や農水省もよくやり玉に挙げられる存在であるが、一般に思われているよりはよく運営されている。
では、農業の現実を理解した上で、日本農業の未来はどうあるべきだろうか。まず高齢化と労働力不足の中、農家に適性のある新規就農者を集めることは極めて重要である。遺伝子組み換え作物を活用することや、兼業農家を育てることも重要だ。アマゾンを範とした農協改革も有効な可能性がある。
筆者は本書を通し、農業について知られていることがいかに少ないか、農業の実態を知らない論者の主張がいかに多く世の中に溢れているかを明らかにしている。日本の農業について分かりやすい解決策があるわけではなく、農業の実態を知ることが何より重要だろう。
そんな筆者の願いは「日本の農業を守る」ことに集約されると思われる。日本の土地は豊かであり、多くの作物を育てられる。長期的に見れば世界の食糧需給逼迫が予想される中で、日本の農業を失うような愚を犯すべきではないのだ、と。日本の農業を守りたいという筆者の願いには多いに共感する。簡単な解はないが、それでも筆者のように農業を知り、農業をよくしようと発信する方が増え、日本の農業が守られていく未来を願いたい。
一言コメント
巷には農業を巡る言説が溢れていますが、筆者のような実際に農業を担っている方にこそ議論をリードしてもらいたい、というのを強く感じました。農業は本当に奥深いです。もっと学んでいきたいと思います。
2022/10/1