基本情報
書名 | 著者 | 読了日 | 評価 | 分野 |
贈与論 | マルセル・モース | 2022年5月22日 | ⭐️⭐️⭐️ | Anthropology |
読書メモ
贈与論、それは人類学者の書いた中で最も有名な書物だといっても過言ではないかもしれない。本書はマルセル・モースが様々な民族誌を読み解きつつ、包括的に贈与について語ったものだ。
現代資本主義においては、市場における売買という交換形式があまりにも自明視されているが、人類は決して売買によってのみ交換を行ってきたわけではなかった。贈与という形式もまた重要な役割を果たしているのである。
一方、ここでいう贈与は一般的にイメージされるような善意に基づくものとは限らない。様々な地域で見られるように、贈与を送ること、受け取ることさえも時として義務なのだ。「ポトラッチ」と呼ばれる全体的給付は、異なる氏族、家族間で関係を築くための契約である。交換の対象は時として「子ども」となることもあり、母方と父方の財産の交換の役割を担う。
モースは贈与の形態を様々な地域の民族誌の内容を引用しながら語る。地域によっては、贈与の裏には霊的なものと結びつく所有の概念が見られる。信用と期限、名誉もまた、義務的な贈与を支える概念に他ならない。贈与を受けたら期限までに返すことは信用に関わる。クランの名誉も贈与によって支えられていることがあり、それゆえに誰もが鷹揚に振る舞うのだ。
このように、人間が社会の中で連帯して生きる上で、贈与という形態は欠かすことができないものであった。筆者は最後の章で、民族誌から学ぶべきことを語る。それは、資本主義が発展した今であっても、互酬的な贈与の仕組みは社会の連帯において極めて重要だ、ということだ。
贈与の重要性を説いた本書は資本主義が猛威を奮う今の時代においても、変わらず読み継がれるべき価値を持っているだろう。また、そのほとんどを捨象してしまったが、本書は様々な地域の民族誌に拠っており、大量の脚注が付与されている。文化人類学がもたらす深い知恵がそこにはあり、現代人が学ぶべきことはきっと本書の内容以外にもあるだろう。
一言コメント
あまりにも資本主義に毒されてしまった現代において、贈与という交換形態の重要性を説いた本書は大きな意義を持つと思います。本書の中で描かれる贈与は決して善意だけに基づくものではなく、義務でもあって、時には堅苦しい印象を受けるのですが、それでもこうした慣習は今の社会においても必要ではないでしょうか。
2022/10/2