基本情報
書名 | 著者 | 読了日 | 評価 | 分野 |
進化しすぎた脳 | 池谷裕二 | 2022年2月19日 | ⭐️⭐️⭐️⭐️ | Science |
読書メモ
脳について基本的なことから講義形式で語られる。1章では、脳のポテンシャルをめぐる議論がなされる。脳はコンピューターのようにソフトウェアとして語られがちであるが、脳と身体は切り離せないものである。脳は非常に進化しているが、我々人間の身体が、脳の計算能力を全て必要とするほどには進化していないため、脳を全て使いこなせてはいないのだ。2章では脳と心をめぐる議論がなされる。人間は自分の意志で全ての行動をしているように思っているが、実際にはそうではない。錯視の例からわかるように、人間は世界をありのままに見ているわけではなく、脳による無意識の解釈から逃れられない。自由意志に関しても、脳の指令が出てからその行動を意図したという意識が生まれることが分かっており、無意識に支配される部分は大きいのだ。3章では、脳の曖昧さをめぐる議論がなされる。記憶がその最たるものだ。記憶が完璧であったなら、記憶は状況に依存するものになり、新たな状況に対応することはできないという意味で、曖昧さはある意味合理的なのだ。4章では、人間と進化をめぐる議論がなされる。ほとんど老人にしか起こらないアルツハイマー病は自然淘汰されてこなかった。人類は薬によってこれを克服しようとしている。また、デザイナーベビーの問題もこれからは避けて通れない。人類は進化のプロセスそのものを変えようとしているのだ。本書は非常に分かりやすく脳の面白さを見せてくれる。脳は曖昧で、曖昧であるがゆえに我々は生きていられる。脳は単純に個に還元できるわけではなく、部分を超えた全体が成立する複雑系である。不完全で複雑な脳、これから脳科学は何を見せてくれるのだろうか。
一言コメント
脳って不思議ですよね、という話です。脳については知りたい気持ちと知りたくない気持ちが共存しています。幸い、今のところ、脳という複雑系を完全に理解できる日は中々来そうにありません。
2022/10/2