基本情報
書名 | 著者 | 読了日 | 評価 | 分野 |
西洋の自死―移民・アイデンティティ・イスラム | ダグラス・マレー | 2021年4月10日 | ⭐️⭐️⭐️ | Philosophy |
読書メモ
ヨーロッパが移民によって崩壊している―筆者はそのことに警鐘を鳴らす。ヨーロッパ文明は偉大で寛容だ。男女平等といった核心的な価値観さえも共有しない人々さえも寛容にも受け入れ、その結果ヨーロッパ的な価値観が失われつつある。ヨーロッパの病理はよく理解できる。過去ヨーロッパ文明はあまりにも強大で、その帝国主義的な普遍主義は植民地支配という災禍と最悪な戦争を招いた。それゆえ、ヨーロッパのエリートは過去ヨーロッパを形作ったもの―キリスト教、合理主義、ロマン主義(ナショナリズム)といった価値観をことごとく否定・脱構築し、人々を個人に還元するリベラリズムを推進したのだ。でも、リベラリズムが主流で、頼るべき価値観のない社会は、弱者にとってはきっと重すぎる。そうした人々が反発する中で、リベラリズムの提唱者たちは、過度に自文化を否定し、他文化への寛容を強調する。それが自分の文化の根源を脅かすとしても―。ヨーロッパの大量移民は間違いなくリベラルの最大の失策だった。誰もがリベラルを受け入れられるわけではないし、他国の人々を勝手に性善説的にとらえるべきではない。リベラルが反省するべきことは多いと改めて感じさせられた。
一言コメント
ヨーロッパに対する大量移民に警鐘を鳴らし、”価値観を共有しない人々”を寛容にも受け入れる西洋リベラルを痛烈に批判した本書は、安易な読み方をすると排外主義、文明の対立論に帰結しかねない危険な本でもあります。が、寛容という言葉に囚われ、教条的になりすぎているリベラルに対する本書の批判は、傾聴する必要が大いにあるように思われます。21世紀において、あるべきリベラルの姿とは何か、考えさせられます。
2022/4/30