基本情報
書名 | 著者 | 読了日 | 評価 | 分野 |
デジタルエコノミーはいかにして道を誤るか | ライアン エイヴェント | 2021年6月19日 | ⭐️⭐️⭐️ | IT |
読書メモ
デジタルエコノミーはどこに向かうのだろう。誰もが働かずに豊かな生活を送れるユートピアか、一握りの資産家と多くの無産階級に分かれるディストピアか。本書はデジタルエコノミーの未来について考察していく。
近年のデジタル技術の発展はまさに革命的である。そんなデジタル技術は人類の生産性を高め、豊かな生活を提供する―、と思いたいが、現実はそんなに単純ではない。雇用にはトリレンマがあり、①高い生産性と高い給料②自動化への抵抗力③大量の労働者を雇用する可能性、の3つを同時に叶えることはできない。だから、自動化されない高生産性の仕事はごく一部の高熟練労働者に独占される。自動化により、大量の雇用を必要とする仕事は減り、低熟練の労働者は低生産性の仕事を奪い合うようになっている。
こうして労働余剰が生じた世界であっても、公正にお金が分配される可能性はあるのだろうか。経済学によれば、分配を決めるのは希少性である。今最も希少性があり、価値を生んでいるものは、労働でも資本でもなく、企業の社会関係資本だ。こうした企業文化という価値は、社員一人一人が保持できるものではない。だから必然的に経営層がその恩恵を独占することになる。このメカニズムは国内の格差だけではなく、国際的な格差をも生み出している。十分な社会関係資本がない発展途上国は、どんなに優秀な人間であっても十分な報酬を得られないのだ。
デジタルエコノミーが労働力の余剰と社会関係資本から得られる恩恵の独占という二つの経路を通じて、格差を拡大し、世界に不公正にしてしまうものだとするならば、何をするべきなのか。それは、デジタルエコノミーの恩恵を幅広くいきわたらせるための再分配にほかならない。我々が、「同じ人たち」と考える範囲を少しでも広げ、なるべく多くの人たちと多くを分かちあうこと。筆者の主張は最もだ。尤も、それが何よりも難しい。
人々に働きがいのある仕事を用意しつつ、デジタルエコノミーの恩恵を幅広くいきわたらせる―今世紀最大のテーマになるに違いない。今後も考え続けていきたい。
一言コメント
デジタルエコノミーによって人類の生産性は上がっているのに、人々の生活は豊かにならず、格差は拡大しているのが現状ですが、本書はその理由を語ったものです。ケニアのM-PESAが農家の人々の生活を変えたように、本来テクノロジーは人々のためになるはずです。皆が幸せになるためのテクノロジーのあり方、今一番ホットなテーマだといっても過言ではないかもしれません。
2022/5/1