『服従の心理』

基本情報

書名著者読了日評価分野
服従の心理スタンリー・ミルグラム2021年6月19日⭐️⭐️⭐️Psychology

読書メモ

ミルグラムの服従実験―心理学史に名を残す伝説の実験―の実施者が、実験の裏側、結果について語る。服従実験が一般社会にもたらした影響は計り知れない。全くの一般人が権威に服従し、残酷な行為に走る過程をまざまざと提示して見せたのだ。ハンナ・アーレントの言う「悪の陳腐さ」を実証するような結果と言える。
ミルグラムの服従実験自体の内容については、あまりにも多くの書籍で引用されているため、特に新しい発見があるわけではない。驚くべきはむしろ、その実験計画の精緻さである。いかなる場合に人が権威に服従し、いかなる場合に抵抗できるのか。それを検証するため、ミルグラム実験では、参加者が実施するタスクや身体距離、権威との役割関係、第3者の配置などを変えながら、様々なパターンの実験を行っている。一貫して言えることは、人は権威に容易に服従するということ。しかし、そうした追加実験は、抵抗してくれる第3者がいれば、声を上げられる人が多い、ということも明らかにしてくれる。
本実験は社会に大いなる影響を与えたが、問題が全くなかったわけではない。参加者にかなりの心理的な負荷を強いる実験は倫理的な批判を免れ得ない。解説で語られているように、個人によるある種英雄的・自己犠牲的な抵抗がなければ服従とみなすという解釈は、あまりにも厳しすぎるのではないか。実際には権力に対抗するのは、個人ではなく社会であることが多いから。とはいえ、権威に服従しがちな人間の心理的な傾向を実証した実験として、その意義が減じることはない。権力の暴走を防ぐために、現代でも必ず知っておくべき知恵の一つなのではないだろうか。

一言コメント

ミルグラムの服従実験は一番有名な心理学実験かもしれません。ただ、その内容を勉強したことはあったとしても、実際にミルグラムが書いた本まで読んだことがある人は少ないでしょう。この本を読む限りでは、ミルグラムの実験の精緻さに驚かされます。ただ、ミルグラム実験に対しては諸々の批判がなされているのも事実であり、結果を100%真に受けていいかと問われると疑問ではあります。その点を念頭に置きながらであれば、非常に面白い本です。
2022/5/1

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