基本情報
書名 | 著者 | 読了日 | 評価 | 分野 |
精密への果てなき道:シリンダーからナノメートルEUVチップへ | サイモン ウィンチェスター | 2021年7月3日 | ⭐️⭐️⭐️ | Science |
読書メモ
人類は果てしない道を歩んでいる、「精密さ」へとー。本書は「精密さ」を巡る人類の物づくりの歴史を語る。
「精密さ」を初めて求めたのは18世紀ジョン・ウィルキンソンと言われている。彼は精密な蒸気機関を作り上げ、産業革命が走り出す力を生み出した。この時、公差は0.1インチ。精密さという意味ではまだ物語は始まったばかりだった。その後、魅力的な人々によって公差はどんどん小さくなっていく。錠前や互換性のある精密な部品を作ったブラマーやモーズリー、銃の部品の精密さを引き上げたブランチャード、ねじを規格化したホイットワース。この古典的な時代に公差は0.0000001インチとなっていた。
その後物語は現代的な生産に向かい、精密さの度合いは加速していく。フォードは精密なベルトコンベヤ型の生産体制を築いた。ホイットルはジェットエンジンでの高度1万メートルでの飛行のため、さらなる精密さを実現した。ハッブル宇宙望遠鏡に積まれた主鏡やGPS、集積回路といった事例は、人類が際限なく精密さを追求していく過程を表している。現代の人類が精密さの集大成、それは重力波を観測するLIGOである。その分解能は、ケンタウルス座α星までの距離が人間の髪の毛ほど変わっただけで検知できるほどだ。
これは公差にして0.00000000000000000000000000000000001の世界になる(0が35個)。全く狂気というほどないレベルの精密さがまさに目の前にあり、人類はそれでも満足せず、精密さを追求し続けるのだ。
ここで筆者は一つ問いを投げかける。精密さだけがすべてなのか、と。筆者は日本に「精密ではないもの」の美しさを見る。日本では精密ではない自然の材料を用いた物づくりがずっと行われてきた。一方で高度な科学技術を持ちながら、一方では「人間国宝」による手作りに価値を見出している。筆者はその2面性にこそ学ぶべきだと説いて終わる。
狂気なほどの精密さは確かに人類に知恵をもたらしてくれているが、一方で精密ではないものを愛する姿勢は確かに素晴らしい。そういう文化が残っている日本だからこそ、忘れてはいけない視点を気付かせてくれた。
一言コメント
精密さの歴史という独自の観点に惹かれて即購入しました。とにかく今の精密さの度合いには驚かされます。他にない視点での科学史の本、非常に面白い内容でした。
2022/5/1