『希望と自由の哲学 サルトル 実存主義とは何か』

基本情報

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希望と自由の哲学 サルトル 実存主義とは何か海老坂武2021年8月14日⭐️⭐️⭐️Philosophy

読書メモ

20世紀の偉大な知性であり、その生き方を以て今も人を惹きつけてやまない人物ーそれがサルトルである。本書はそんなサルトルの主張を、彼の歩んだ人生と共に分かりやすく解説する。
サルトルの主張(実存主義)の基本にあるのは、「実存は本質に先立つ」ということだ。言い換えれば、人間は本質的な目的を持って生まれるわけではなく、誰もがまず実存し、その後で自ら目指したものになっていくということである。それならば必然的に、「主体的に」未来に向かって自らを投げ出す「投企」が必要になる。彼のこの主張は、彼を一躍有名にした『嘔吐』という小説の中に見ることができる。この小説の中で、ロカンタンは自らの生の無意味さを知り、実存の悩みに直面する。まさに「実存は本質に先立つ」という彼の主張が表されているのだ。
「主体性」の考え方に続けて生まれてくるのは「人間は自由の刑に処せられている」という有名なフレーズである。人間に本質はなく、自らなりたいものになれるとするならば、人間は限りなく自由である。ただし、それは夢のような自由ではない。自由であるということは、自らの選択の責任を引き受けなければならないということであり、人間はこの自由と責任から逃れることはできない。自由の刑に処せられているのである。そうした自由に直面し、『嘔吐』のロカンタンは芸術の道を志す。芸術は偶然性に彩られた世界の中に、何か自分で必然的な秩序を生み出すことであり、彼はそのことに希望を見出したのだ。
サルトルの主張においてもう一点欠かせないのが、他者との関わり方であり、アンガジュマンという生き方である。人は常に他人と関わり、対他存在が定義される。また、社会によって必然的にアンガジェ(=巻き込む)される。こうした対他存在を直接変えることはできず、アンガジェから逃れることはできない。しかし、だからこそ、対他存在を自ら引き受け、他者・社会に働きかけていくこと、言い換えればアンガジュマン(=自ら巻き込むこと)を行っていく必要があるのだ。こうした彼の主張は、ナチスによって凄惨な行為がなされる中、それを止められなかったという意識が生み出したものなのかもしれない。
サルトルは実存主義という偉大なる哲学を築き上げただけではなく、人間の可能性や希望を常に信じ続け、自らの人生の中で己の哲学を実践した人物である。『嘔吐』という作品を残したことも、様々な政治的問題に対して自らの意見を表明した(アンガジュを行った)ことも、ボーヴォワールと自由な関係を生涯に渡って築いたことも、彼の哲学に繋がっている。その人生は自由である一方で、重い責任がのしかかっていたに違いない。それでも己を貫いたその生き方に人は惹きつけられるのだ。
実存主義が勢力を失って久しい21世紀であるが、民主主義を揺らがすような様々な問題が存在していることには変わりがない。そうした中で求められるのは、サルトルの言うような「主体性を持った、自由な、アンガジュマンする生き方」なのではないか。間違いなく、21世紀も読み継がれるべき知性である。

一言コメント

本書はサルトル哲学の入門書として最適です。主体的な生き方を追求したサルトル哲学には心惹かれます。
2022/5/1

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