基本情報
書名 | 著者 | 読了日 | 評価 | 分野 |
時間は逆戻りするのか | 高水裕一 | 2021年9月18日 | ⭐️⭐️ | Science |
読書メモ
時間が逆戻りすることはない。誰もが当たり前だと思っているその常識が、実は事実ではないとしたら―。本書は最新の物理学の知見を基に、時間が逆戻りするのかを考察する旅に出る。
運動方程式といった物理学の基本方程式においては時間対称性があり、「時間の矢」は自明ではない。一点、熱力学第二法則のエントロピー増大則を除いては。
20世紀物理学第一の柱、相対論は時間の絶対性を揺るがした。時間の経過は速度によって異なる。相対論によれば、未来から過去に向かって飛ぶ光があれば、因果律とは矛盾しない。
20世紀物理学第二の柱、量子力学は物質の常識を変えた。世界は決定論的ではなく、確率論的だ。物質の状態は観測によって定まる。
時間の逆転を阻む最大の敵は、熱力学第二法則のエントロピー増大則である。マクスウェルの悪魔は成立せず、永久機関は実現できないことが証明されている。しかし、ミクロの世界では、熱力学第二法則に反する現象が観測された。量子世界では、時間は巻き戻せるのかもしれない。
未完成のループ量子重力理論は、さらに過激な結論を導く。時間の矢どころか、時間さえもが存在せず、ただ局地的な観測された関係性のみがあるだけなのだ、と。
議論はさらに宇宙論に広がっていく。宇宙の加速膨張とサイクリック宇宙論、虚数時間の概念はさらに我々の時間に関する理解を揺らがしている。
結局時間が逆戻りすることは、少なくともマクロの世界ではないが、ミクロの世界も考えればそれほど自明ではないのだろう。我々が感じている時間の流れ自体幻想なのかもしれないのだ。とはいえ、時間を感じ、時間と共に生きるのが生物であることも間違いない。常識を壊す物理学の世界は面白い。
一言コメント
ところどころ難解ですべてを理解できたわけではありませんが、我々にとって自明と思われている「時間の流れ」が、現代物理学をもってすればそれほど自明ではないということがよく分かります。門外漢にとっても、知的好奇心を満たしてくれるような内容です。
2022/5/4