基本情報
書名 | 著者 | 読了日 | 評価 | 分野 |
ハプスブルク家12の物語 | 中野京子 | 2021年9月20日 | ⭐️⭐️⭐️ | History |
読書メモ
650年もの間ヨーロッパの歴史の中心にいたハプスブルク家、その物語を数々の名画を交えて解説する。
ハプスブルク家の奇跡はルドルフ1世から全てが始まった。その後、ハプスブルク家は婚姻によって勢力を拡大する。いつからか「戦争は他の者に任せておくがいい、幸いなるオーストリアよ、汝は結婚すべし!」という家訓が生まれたとも言われる。栄華を極めたとはいえ、そんな権力闘争と政略結婚に明け暮れた家の人々が皆幸せだったわけもない。
夫と父の対立に巻き込まれたフアナは狂い、50年近くに渡って幽閉された。そんな悲惨な人生を歩んだ彼女だが、一方で日の沈まぬ世界帝国を築いたカール5世を生んでいるのは歴史の皮肉というほかない。カール5世も最多の肩書を持った皇帝として活躍したが、戦争に明け暮れた生涯は幸せなものではなかっただろう。一時は栄華を極めたスペイン・ハプスブルク家も、近親結婚の繰り返しによりあまりにも血が濃くなった結果、破滅へと向かう。ラス・メニーナスに描かれたマルガリータの息子カルロス2世は、濃すぎる血によって子供を残せない体だったのだ。
ハプスブルク家のもう一つの物語はオーストリア・ハプスブルク家にある。マリア・テレジアは宿敵フリードリヒ2世と戦い、卓越した政治手腕で難しい国際情勢の中を生き抜いた。しかし、そんな彼女も娘たちには幸せを与えることができなかった。最も有名な娘マリー・アントワネットは、憎きオーストリア女として断頭台に消えていった。事実上オーストリア・ハプスブルク帝国最後の皇帝だったフランツ・ヨーゼフの人生もまた壮絶だった。弟がメキシコで死に、跡取り息子が心中、妻のエリザベートも暗殺され、甥のフランツ・フェルディナンドもサラエボ事件で暗殺された。容赦ない歴史の流れの中で何とかハプスブルク家の栄華を取り戻そうとする皇帝の人生のなんと孤独で空しいことだろう。
長いハプスブルク家の物語。人を惹きつけてやまないのは当然だ。
一言コメント
ヨーロッパの歴史に燦然と名を刻んだハプスブルク家の歴史本です。ハプスブルク家は栄華を極めた一方で、近親婚の繰り返しによる悲劇が生じてもいました。栄華の裏には影がある―その2面性が歴史の魅力だと思います。
2022/5/4