『保守主義とは何か』

基本情報

書名著者読了日評価分野
保守主義とは何か宇野重規2021年9月26日⭐️⭐️⭐️Politics & Law

読書メモ

保守主義―その言葉は近年あまりにも安易に用いられているが、本書ではその本来の意味を問い直す。
保守主義の源流はフランス革命に反対したエドマンド・バークだと言われる。バークは、イギリス議会主義による漸進的な自由の拡大には賛成しつつも、フランス革命の急進的な改革には反対した。イギリス議会主義の伝統という守るべき価値があっての保守主義であったのだ。
進歩があっての保守主義は、時代と共に必然的に変質する。20世紀になると、新たな進歩の考え方として社会主義が登場した。対して、T・S・エリオットは過去から引き継がれた伝統・文化の価値を強調した。ハイエクは自由主義者の立場から、集権的な経済管理に反対した。「階層的な秩序を根拠なく守ろうとする」のではなく、「理性への過信を批判し、漸進的な改革を主張する」立場として保守主義を捉えるのであれば、彼もまたバークの本流を引き継ぐ保守主義者であった。オークショットは西欧が過度に変化を追い求めたことを批判した。彼は特定の宗教や世界観に基づくものではない開かれた伝統を強調していて、一方でリベラリストとして理解されるべき思想家でもあるが、合理主義批判という立場からは本書でいうところの保守主義の伝統を見出せる。20世紀後半になると、いわゆる大きな政府、社会民主主義的なモデルが進歩の考え方として台頭する。これに異を唱えたのがカークである。カークは『保守主義の精神』の中で、性急な改革への批判に加え、キリスト教的な超越性への信念、所有権の絶対性を共存させており、以後のアメリカ保守主義に引き継がれた。アメリカ保守主義は、宗教的伝統の強調と、独立した個人の強調(経済的リバタリアニズム)に特徴があり、ヨーロッパ的な保守主義とは一線を画している。こうした考え方は、21世紀のティーパーティー運動でも繰り返し述べられ、現在も共和党の中心的な主張になっている。また、20世紀後半からは独自のネオコンの考え方がアメリカで力を持った。クリストルを創始者とするネオコンは、リベラル反共主義から出発し、民主主義的な価値を国際社会で広めようとする特殊な外交的リアリズムを特徴とする。
一方日本においては、長らく保守するべき自由の体制が存在しなかった。伝統的な政治体制は西洋と比べて遅れており、反動主義はあっても保守主義とはなりえなかったのだ。丸山眞男は、日本に守るべき正統がなく、自覚的な保守主義が定着しなかったことを批判している。戦後は保守の自由民主党が力を持ったが、明確な保守主義の理念があったわけではなく、「反共」と「経済成長」のみを共通項とした寄せ集めの集団だった。その2つが揺らぐ中で、保守主義の政党として何を保守するべきかが問われている。
筆者は最後、21世紀にあるべき保守主義を考察して本書を終える。先が見えない時代において、歴史的に築き上げてきた社会の伝統、価値観を大切にする保守主義に求められることは多い。一方で、保守主義は、安易な伝統主義に陥るのではなく、多様性に開かれ、自由で創造的なものであるべきだ、と。
リベラリズムの過度な理性批判、伝統批判、変化の受容を抑制し、漸進的な改革を求める立場としての保守主義を捉えるのならば―、その重要性は非常に高いに違いない。

一言コメント

伝統的な社会が大きく揺らぐ現代、保守主義が強く求められていることは間違いないと思います。安易な排外主義、無批判での伝統固執が保守主義の皮を被っているのが残念な現状ですが、本書を読んで保守主義の源流に立ち戻ってみると、その思索と伝統の深味を感じます。とても学びの多い書でした。
2022/5/4

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