基本情報
書名 | 著者 | 読了日 | 評価 | 分野 |
かもめ・ワーニャ伯父さん | チェーホフ | 2021年12月25日 | ⭐️⭐️⭐️ | Literature |
読書メモ ※ネタバレを含みます
タイトルからは可愛らしいイメージを感じさせられるこの二つの物語は悲劇である。かもめは、若い女優志望の娘ニーナと芸術の革新を夢見るトレープレフの物語。ニーナは文士トリゴーリンに愚かな恋をし、その身の破滅を招く。トレープレフは愛したニーナが去り、新たな芸術という理想が夢砕かれ、最終的に絶望の中自殺する。純粋なものが破滅していくのは、この世の厳しい現実であり、それゆえこの物語が誰の胸にも響くのだ。理想を捨てずに命を絶ったトレープレフは、理想を捨てて生きることを選んだ凡百の人々が選ばなかった人生を眼前に眼前に突き付けてくる。ワーニャ伯父さんは、人生も後半に差し掛かり、妹を亡くし、妹の嫁いだ家で孤独に生きるワーニャ伯父さんの物語。50歳手前で、新しい人生を歩むには遅いが、老い先短いといわけではない。妻子もおらず、親しい家族も居場所もない。それでも生きていかないといけない、そんな苦しさがそこにはある。チェーホフの二つの物語は、私たちの身にもともすれば起こっていたかもしれないリアルを描いている。自分以外も苦しさを感じていることを知り、それに慰められながら、それでも生きていくしかないのが人生だ。そう書いてしまうといささか悲観的すぎるだろうか。
一言コメント
端的にタイトル詐欺です。こんなに悲劇の物語とは…。読むと苦しくなるけれど、人生のリアルを書いているようでもあって、悲劇的な物語が読まれ続けている理由もわかるような気がします。
2022/5/4