基本情報
書名 | 著者 | 読了日 | 評価 | 分野 |
「複雑系」とは何か | 吉永良正 | 2022年2月12日 | ⭐️⭐️⭐️ | Mathmatics |
読書メモ
この世界はずっと複雑だった。でもその複雑さは、科学という試みによって駆逐されたかに思えたー20世紀後半までは。本書は20世紀後半から注目されるようになった「複雑系の科学」について余す所なく語ったものである。複雑系、それは決定論的であるが、高い初期値鋭敏性によって、人間には全く予想できない振る舞いをする系である。複雑系はずっと自然界に存在していたが、「単純な決定論の系」と「ランダムな(確率論的な)系」の両輪で動いてきた近代科学は、それらを扱うことはなかった。複雑系の予想不可能性は観測技術不足の問題であり、技術が改善すれば単純な決定論的な系に還元できる、と考えられてきた。そこに疑問を投げかけたのがカオスである。極めてシンプルな規則から、複雑な振る舞いが生まれるカオスは、近代科学の常識を塗り替え、複雑系の科学が一躍時代の寵児となったのである。その主役となったのがサンタフェ研究所である。各分野一流の科学者が集まったサンタフェ研究所では、コンピュータシミュレーションという新たな武器を手に、様々な研究がなされた。ウォルフラム、カウフマン、ラングドンらの研究により、急速に複雑性が増していく「カオスの縁」が見出された。複雑系の科学は人工生命にも発展していく。生命の複雑な振る舞いは単純な規則から生まれるという考えが広く注目された。そんな複雑系の科学は未だ発展途上であるが、今後の成果に期待せずにはいられない。筆者は最後の章で、複雑系の科学は、単なる新しい科学ではないということを強調する。それは世界の新しい見方なのだ。単純な決定論としてでもなく、確率論としてでもなく、複雑な世界を複雑なままに見ること。そんな複雑系の見方は、科学だけではなく哲学にも変革を迫っている。世界は複雑だ。それゆえ、複雑系の科学こそがある意味自然で、今までの科学は不自然だったのかもしれない。複雑性の深淵な世界、気になって仕方がない。
一言コメント
この複雑な世界を複雑なまま見る科学、そんな「複雑系の科学」はこれからの人類の科学の発展に大きく寄与することは間違いないと思います。白か黒か、単純で安易な回答が求められがちな現在、複雑系という考え方そのものも広く知られてほしいと願います。
2022/10/2