『侍女の物語』

基本情報

書名著者読了日評価分野
侍女の物語マーガレット・アトウッド2022年9月10日⭐️⭐️⭐️Literature

読書メモ ※ネタバレを含みます

侍女の物語―、それは女性が抑圧されたディストピア社会を描いたあまりにも有名な小説である。この物語世界ギレアデの中では、女性は生殖を行う存在としてしかみなされていない。女性は厳しく階級付けがされ、主人公「オブブレッド」が属する侍女階級は、司令官と呼ばれる男性の子どもを産む役割だけを負う。侍女たちには自由な会話さえ許されておらず、男性の欲望を煽ってはならないという理由から、常に顔を隠して生きることを強いられている。財産や仕事を持つこともできない。反逆あるいは不妊(この責任は全て女性に帰させられる―)の代償は汚染された土地での悲惨な生活である。主人公はほんの20年ほど前、娘や夫と暮らした幸せで自由であった過去を思い出すが、過去は政府によって一掃されている。堕胎は過去に渡って大罪とみなされ、堕胎に手を貸した医師は見せしめで殺されて吊るされる。「オブブレッド」という名前も、男性の名前プラス所有格であり、女性はそのアイデンティティさえも奪われている。女性の自由が何もない悲惨な世界だ。
そんな世界に強く反感を抱きつつも、主人公オブブレッドは現状を変えることはできず、ただ生き延びていく。彼女の友人モイラは勇敢にも抵抗を試みるが、オブブレッドは同じようにはできない。そんな中、オブブレッドは司令官の気まぐれによる誘いを受け、一時逃亡への希望を得る。が、それは仮初めのものだった。政府の高官である司令官は、オブブレッドを欲望が禁止された世界の非公式な売春宿に連れていき、快楽を得ようとしただけだった。希望が失われ、その後の彼女の姿は語られない。
そんな彼女の絶望的な語りが終わった後、小説は数百年後の未来に飛ぶ。未来の歴史研究家がこの時代の研究を行った成果を発表している。そこでは、この小説の語りは、オブブレッドによってどうにか口伝されたものだということが判明する。抑圧された社会で何かを残したオブブレッドの勇敢さが明らかになった。
この物語は最後まで救いはない。オブブレッドの最期は誰も知らないし、登場する女性の多くは悲惨な人生を送っている。男性もまた不幸な社会だ。快楽は厳しく抑圧され、司令官にならない限り侍女を与えられることもない。それでも、オブブレッドのような名もなき女性の勇敢な行動が、この社会を変えていったのだという希望だけは最後に感じさせられるようになっている。
小説として面白いわけではなく、読んでて苦しくなる内容であるが、本書がフェミニズム運動にもたらした影響は大きいだろう。現代であっても完全に女性への抑圧がない社会はどこにもないし、一歩間違えればその先はギレアデであると、厳しく警鐘を鳴らすのがこのディストピア小説であるからだ。

一言コメント

読んでで苦しいディストピア小説です。こんな社会にならないように努力していかなければなりません。物語としては面白いわけではないですが、広く読まれるべき作品です。
2022/10/2

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