『眠れないほどおもしろい徒然草』

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書名著者読了日評価分野
眠れないほどおもしろい徒然草板野博行2021年3月20日⭐️⭐️⭐️Literature

読書メモ

徒然草の面白さを語った本。わずか30歳頃で出家した兼好は70歳過ぎで亡くなるまでつれづれなるままに文章を書き続けた。そんな徒然草は章の間での矛盾もある―恋についてロマンチスト的な主張を繰り広げる一方で、徹底的な現実主義者だ―が、人の考え方は日々変わるものだから、そのことによってかえって作品の価値が上がっているように思える。他の章でも兼好は、人間に対しての深い洞察を語っている。凡人は形を大事にせよ、寸暇を惜しむな、といった教訓は今でも通用する。おそらく兼好法師の考えで一貫しているのは”無常観”、すなわち俗世的な富や権力は永遠ではないという認識と、現実主義、すなわち人間は決して高尚な善なる存在ではないのだという認識にあるのではないか。俗世と仏教の道の間で揺れ動き、冷静な目で人間を見つめ続けた兼好法師。いつの時代も人間は変わらない。徒然草の魅力がよく分かった。

一言コメント

徒然草は知識としては知っていても、その中身はほとんど知りませんでした。この本を読むと、その中身は兼好法師が人生の色々なできことについて自由に語ったもので、現代にも生きる教訓が多くあるということがよく理解できます。昔の人が考えてきたことを知るのは面白いですね。
2022/4/30

『1984年』

基本情報

書名著者読了日評価分野
1984年ジョージ・オーウェル2021年3月18日⭐️⭐️⭐️⭐️Literature

読書メモ ※ネタバレを含みます

権力の恐怖を描いた作品としてあまりにも有名だが、そのリアルさにとにかく圧倒される。時は1984年、人々”プロール”と”党員”に分断され、党員は四六時中党に監視される。”テレスクリーン”があちこちに配備され、どんな反逆的な行動も許されない。”思考犯罪”という言葉があり、反抗的な思考をしたとみなされると、存在そのものが消去、すなわち”蒸発”させられてしまう。文字通り、”Big Brother Watches you”の世界。そうした恐ろしい権力の維持を可能にしているのは、徹底的な検閲、文字の簡略化と思考の略奪、絶え間ない歴史の修正にある。主人公ウィンストンは歴史の修正に携わる党員だが、党の主張に疑問を抱き、ジュリアと恋に落ちる。彼はオブライエンに惹かれ、伝説的な反政府組織に加入する――と思いきや、組織は存在せず、オブライエンは党の人間だったのだ。ウィンストンは凄惨な拷問を受け、ジュリアを裏切り、”2重思考”を身に着ける。そして最後にはこう言うのだ。”Big Brotherを愛している”、と。救いのない結末に裏切られた。この本では何よりも、全体主義体制を実現させるための機構のリアルさに感服させられる。名著には読み継がれている理由がある。そして、これからも読み継がれてほしい。いつだって時代はBig Brotherを作りたがる。それを止められるのもまた人間しかいないのだから。

一言コメント

権威主義体制の恐怖を描いた有名な作品です。実際に読んでみると、そこに書かれる権力を維持するための仕組みの見事さに驚かされます。臆面もなく嘘が垂れ流され、権威主義の恐怖をこれでもかという程感じさせられている2022年、今こそ読むべき本ではないでしょうか。『1984年』が完全に時代遅れになる日が来ることを願います。
2022/4/30

『源氏物語の楽しみかた』

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書名著者読了日評価分野
源氏物語の楽しみかた林望2021年3月17日⭐️⭐️⭐️⭐️Literature

読書メモ

源氏物語は面白い―そのことが身に染みてわかる本。
源氏物語と親子の情、源氏物語の死の描かれ方、源氏物語と夫婦の在り方など、様々な観点から源氏物語を深めていく。中でも印象に残ったのは、葵上、明石の君、紫の上をめぐるエピソード。
葵上は右大臣家と対立する運命にあり、光源氏の心は藤壺にだけ向いている。そんな中で葵上と光源氏の婚姻がうまくいくはずがなかったのだ。一時光源氏は葵上のことを想い、夕霧が生まれるが、間もなく葵上は六条の御息所の祟りで孤独の中亡くなってしまう。葵上は決して冷淡だったわけではなく、運命に翻弄された不幸な女性だったのだろう。「葵上は一人で死ぬことで光源氏へ復讐を果たしたのではないか」、重くて深い洞察だ。
明石の君をめぐっては、父明石の入道が一人明石に残り、明石の君と明石の姫君が都に戻る悲しい離別のシーンが紹介される。明石の君も立派な女性として描かれるが、入道の生き様も立派というほかない。
光源氏に最も深く長く愛された紫の上については、本書で最も紙幅を割いて語られる。光源氏の浮気癖に悩まされつつも、それとなく諫める気位の高さ。明石の姫君を自分の子どものように育てる優しい心。そんな気位が高く、美しい理想の女性、光源氏の最愛として描かれる紫の上の人生は幸せだったのだろうか。苦しみも多かった人生だと思うが、育てた明石の中宮からは最大の敬意をもって看取られ、死後は光源氏に限りなく悼まれたーそのことをもって紫の上の人生は報われたと言えるかもしれない。源氏物語は面白い。

一言コメント

源氏物語について深く語った書。専門家の解説があると、物語を何倍も楽しめるということがよく分かります。古典は深く、人生を豊かにしてくれるものですね。
2022/4/30

『変身』

基本情報

書名著者読了日評価分野
変身カフカ2021年3月13日⭐️Literature

読書メモ ※ネタバレを含みます

「ある朝、目をさますと、自分が一匹の巨大な虫に変っているのを発見した」、そんな衝撃的な文章から始まる物語は一貫して意味不明である。虫に変ってしまった理由は全く語られない。主人公はなぜか虫になってなお冷静に思考している。家族はザムザを恐れつつも、虫になったことは自然と受け容れている。この作品はとにかくグロテスクで不条理でもある。虫の描写はリアルであり、不快感すら感じる程だ。結末には全く救いがなく、父の投げたリンゴによる傷がもとになってザムザは死亡し、家族はまた別の場所で新しい生活を始める。カフカはこの小説を通して何が言いたかったのだろう?「父と子の対立が書かれている」など、様々な解釈が存在しているが、ピンとくるものはない。無理にカフカの考えを読み取ろうとしても、得るものはないのかもしれない。少なくとも面白い作品ではないし、深い意味が分かったわけでもない。ただ謎と不快感だけが残った。が、恐らくその感情は忘れられないだろう。それがカフカの意図であったとするならば、全く見事に嵌められたというしかない。

一言コメント

とにかく意味が分からない作品で、もう一度読み直したいとは全く思えませんが、確かにその内容は今も心に残っています。不条理文学の極致という気がします。
2022/4/30

『ティファニーで朝食を』

基本情報

書名著者読了日評価分野
ティファニーで朝食をトルーマン・カポーティ2021年3月13日⭐️⭐️Literature

読書メモ ※ネタバレを含みます

ティファニーで朝食を―そんな上流階級の生活を夢見て、金持ちに囲まれる日々を送るホリー・ゴライトリー。冴えない主人公はそんな彼女の生き方に徐々に惹かれていき、ホリーも主人公に少しずつ心を許すようになっていく。そんなホリーは意図せずして、犯罪者に情報を流してお金をもらう役割を担っていた。彼女は犯罪が発覚すると同時にすべてを失い、国外逃亡を決意する。その後彼女はどうなったのだろうか?その手掛かりとも言えるものは、アフリカから届いた一つの目撃情報だけだ。過去の田舎での生活を捨て、理想を夢見て、どこまでも自分らしく―悪く言えば自分勝手に―生きたホリー・ゴライトリー。彼女に惹かれる主人公の想いには共感する。
本文で書かれていないが、きっとホリー・ゴライトリーはどこか遠くで彼女らしく生きている。そう思わされた。

一言コメント

映画版ではオードリーヘップバーンが演じたことで有名な『ティファニーで朝食を』。勝手に持っていた先入観とは違って、主人公ホリー・ゴライトリーの暮らしは虚飾に塗れたものでした。本作品では描かれなかったホリー・ゴライトリーの「その後」をどう考えるかは、読者に委ねられているのでしょう。
2022/4/30

『オリヴァー・ツイスト』

基本情報

書名著者読了日評価分野
オリヴァー・ツイストチャールズ・ディケンズ2021年3月12日⭐️⭐️⭐️Literature

読書メモ ※ネタバレを含みます

救貧院で悲惨な境遇の中生まれ育った孤児オリヴァー・ツイストの人生を描いた物語。オリヴァーは悲惨な境遇の中でも純粋な心の少年に育ち、周囲の”教区の紳士達”の冷酷さとの対比により、その異質さが際立って見える。そんなオリヴァーは救貧院から奉公に出された家を抜け出し、盗賊団の首領フェイギンに拾われる。オリヴァーは盗賊団から抜け出し、心優しいブラウンロー氏やメイリー夫人の下で一時の幸せを得るが、フェイギンと悪党サイクスは協力者ナンシーの手引きでオリヴァー・ツイストを取り戻そうとする。彼らがこれほどまでにオリヴァーにこだわった裏には、オリヴァーの出生の秘密―オリヴァーは豊かな紳士の隠し子だった―とその事実を抹消しようとする兄モンクスの陰謀が存在したのだ。ナンシーの密告とその後の悲劇があり、全登場人物が相まみえる大立ち回りの末、物語はハッピーエンドを迎える。一冊を通し、善なる人々―純粋な少年オリヴァーとブラウンロー氏などの周囲の大人―と、悪なる人々―フェイギンやサイクス、バンブル氏―の対比が明確に描かれ、大きな勧善懲悪物語としての体をなす。今の感覚だと物語の流れがやや粗削りな印象を受けるが、都市部で悲惨な貧困が問題となっていた19世紀末にあって、オリヴァーの純粋さは大きな社会的影響を与えたのではないか。イギリス最大の文豪と言われる理由はわかる。

一言コメント

文豪ディケンズの作品。悲惨な貧困状況を描いたリアリズム作品としては、やや現実味に欠ける点においてゾラなどの作家に劣る感触を受け、勧善懲悪のエンタメ小説としては、他にもっと面白い作品があるのではないかと感じさせられてしまいます。が、純粋で善なる少年が、周囲の優しい人々に助けられ、悲惨な境遇を脱していく物語は、貧困の悲惨な実態があった中で求められた”現実であって現実ではない”物語だったのかもしれません。
2022/4/30

『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』

基本情報

書名著者読了日評価分野
アンドロイドは電気羊の夢を見るか?フィリップ・K・ディック2021年3月13日⭐️⭐️⭐️Literature

読書メモ ※ネタバレを含みます

地球が核戦争で滅び、人々が火星に移住した世界。人々はリアルの動物を所持することがステータスになっている。一人目の主人公リック・デッカードは、逃亡アンドロイドを処理する賞金稼ぎである。彼は人間と見分けがつかないアンドロイド、まるでアンドロイドのように残酷な人間を見て心が揺さぶられ、アンドロイドと関係を持つ。もう一人の主人公イジドアは貧しい〇特で、逃亡アンドロイド3人と心の交流をし、孤独を癒す。共感力を持つものが人間で、そうでないものがアンドロイドだ―そんな常識が壊れ、少しずつ人間とアンドロイドの境目が不気味に消えていく。デッカードは迷いながらも3人のアンドロイドを処理し、同じタイミングで、一時デッカードと関係を結んだレイチェルに残酷にも山羊を殺される。山羊を殺すことは、この世界では恐ろしいほどの共感力の欠如であり、アンドロイドと人間の間の厳然たる差異が提示される。最後にデッカードは人間の妻イーランとの関係性を取り戻すが、電気ヒキガエルにも愛着を覚える。物語が進むにつれて人間とアンドロイドの境目が曖昧になっていき、再度差異が目の前に提示されたと思いきや、最後には電子の命への共感をもって終わる。読み終わった後、人間とは何か一層わからなくなった。いつか人間とアンドロイドの区別がつかなくなる日はきっと来る。人間性についての深い問いを投げかけた名作。

一言コメント

タイトルだけはあまりにも有名ですが、実際に読んだことがある人はそれほど多くはないかもしれません。人間とアンドロイドの違いは現代で一層重要なテーマになっているように思います。是非読み継がれてほしい作品です。
2022/4/30

『ジキルとハイド』

基本情報

書名著者読了日評価分野
ジキルとハイドスティーブンソン2021年3月6日⭐️⭐️Literature

読書メモ ※ネタバレを含みます

高潔で立派なジキル博士、彼の中には醜悪な人格ハイドという男がいる――。2重人格が扱われた原典というべき作品。ジキル氏は内にいる悪い本性の誘惑に抗えず、薬の力を使って、ハイドを作り出した。最初のうち両者は共存していたが、次第にジキル氏はハイドの人格に飲み込まれていく。ハイドは殺人を犯し、ジキル氏は手段を尽くして運命に抗うが、最後には破滅を迎える。誰の中にもきっと多かれ少なかれハイドの人格は存在するが、理性で抑え込んでいる。ハイドの声が大きくなったとき、人は破滅に至るのだ。短くて読みやすい小説でありながら、人間の本性に対する深い洞察に基づいた見事な作品だった。

一言コメント

2重人格テーマの作品として有名です。この物語を真に堪能するには、現代は2重人格というテーマが当たり前になりすぎてしまっているのかもしれません。
2022/4/30

『星の王子さま』

基本情報

書名著者読了日評価分野
星の王子さまサン=テグジュペリ2021年3月6日⭐️⭐️⭐️Literature

読書メモ ※ネタバレを含みます

砂漠に不時着した飛行士が星の王子さま(”Littele Prince”)に出会う。可愛らしいイラストに彩られた子ども向けの物語に見えるが、王子さまは深いメッセージを残している。小さな星で、小さな花を大事に守る日々は美しい。王子さまは、空を見上げればどこかに自分の星があるから、ぜんぶの星が友達になるねと言い残して去って行く。飛行士と王子さまの短い心の交流が心に残る。

一言コメント

子ども向けの物語としてあまりにも有名ですが、大人が読んでも伝わってくる魅力があります。文学作品を読むとき、つい深い意味を捉えようとしてしまいますが、この作品については、童心に返って王子さまとの心の交流を愛おしく感じるだけで十分なのかもしれません。
2022/4/30

『眠れないほどおもしろい源氏物語』

基本情報

書名著者読了日評価分野
眠れないほどおもしろい源氏物語板野博行2021年3月6日⭐️⭐️Literature

読書メモ

源氏物語のあらすじと面白さをまとめた本。光源氏と取り巻く人々の波乱万丈の人生を知るだけで面白い。原文を通しで読むことはないだろうが、作品の概要を知るだけでも人生が少し豊かになった気がする。

一言コメント

感想は短めでした。この後、他にもいくつか源氏物語関連の著作を読んだので、そちらの印象の方が強かったのかもしれません。1000年前の長編小説が今に伝わっていることの偉大さはしみじみと感じます。
2022/4/30