『超約 ヨーロッパの歴史』

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書名著者読了日評価分野
超約 ヨーロッパの歴史John Hirst2021年2月10日⭐️⭐️⭐️History

読書メモ

ヨーロッパの歴史を大きな構造からとらえなおした本。中世ヨーロッパ文明は3つの大きな要素の不思議な混合物である。①古代ギリシア・ローマの文化②キリスト教③ゲルマン戦士の文化、だ。近代はこの混合物が崩壊する過程だった。科学革命により、ギリシア人は誤っていることが分かり、進歩や合理主義の概念が支配的になる。宗教はその重要性を失っていく。ロマン主義は個人の感情や文化を重視し、近代において支配的概念になるナショナリズムを形成する。ナショナリズムや進歩の先に、ヨーロッパ人は二度の大きな戦争を経験する。宗教は科学より下位に置かれがちな一方で、ヨーロッパ人は”伝統的社会”、”未開”に憧れ続けている。
ヨーロッパ文明はそれぞれに矛盾を抱える混合物であり、それを超克できるのか。ヨーロッパの歴史やヨーロッパ文明を理解する上で必要な本。

一言コメント

ヨーロッパ文明を大きな異なる3要素からなる混合物と捉え、その矛盾や対立から歴史を描き上げたのは見事と言う他ないと思いました。日本も間違いなくヨーロッパ文明の影響を強く受けており、ヨーロッパを知ることには大きな意義があると思われます。
2022/3/6

『CRISPR 究極の遺伝子編集技術の発見』

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書名著者読了日評価分野
CRISPR 究極の遺伝子編集技術の発見ジェニファー・ダウドナ2021年2月7日⭐️⭐️⭐️Science

読書メモ

夢の遺伝子編集技術CRISPR-Cas9、その創始者がCRISPRについて語りつくした本。CRISPR-Cas9は、当初から遺伝子編集技術を作りたいという意図をもって研究されたものではなかった。細菌内のCRISPRという特殊な構造を研究する中で、偶然遺伝子編集への応用可能性が発見されたのだ。そんなCRISPRにより、遺伝子編集技術は極めて簡易―高校生でもできるくらい―になった。
筆者は後半で、CRISPRが巻き起こす重大な生命倫理問題にも果敢に踏み込んでいる。筆者の提言はこうだ。生殖細胞以外の遺伝子編集による遺伝子由来の病気の解決、これは間もなく実現できるはずだし、病気の苦しみを考えても認められるべきだ。一方、生殖細胞の操作―それは人類の遺伝子について後世にわたって不可逆的な影響をもたらす―については、十分議論された後でないと実施してはならない。
想像を超えるCRISPRの力に空恐ろしくなり、トランスヒューマニズム的な未来を感じさせられるが、筆者のような科学者が倫理的な問題に逃げずに向き合い、開かれた議論を巻き起こそうとしていることには勇気づけられる。人類が科学を正しく使う未来が来ることを願う。

一言コメント

CRISPR-Cas9はノーベル化学賞を獲ったことで記憶に新しいところです。簡単に操作できる遺伝子編集技術は、大きな可能性と大きな危険性を秘めています。正しく知り、正しく利用するよう訴えていく必要がありそうです。
2022/3/6

『ドーナツ経済学が世界を救う』

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書名著者読了日評価分野
ドーナツ経済学が世界を救うケイト・ラワース2021年2月7日⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️Economics

読書メモ

GDPに代わる、これからの世界が目指すべき目標について語った本。
目指すべきはドーナツの図―すなわち、社会的基盤を充足させつつ、環境的基盤を損なわない範囲―に経済を収めることだ。筆者は今まで経済学者によって作られてきた物語を強く批判する。①市場は完璧ではない。②企業は株式価値の最大化ではない目的を持つ必要がある。③国家は大きな役割を持つ。④家計や社会の貢献を無視してはならない。(”社会はある”)⑤地球は全ての基盤で資源は無尽蔵ではない。それだけではなく、経済学者の唱えるホモ・エコノミクスは誤りだ。人間は合理的ではなく、ヒューリスティックスの役割を過小評価してはならない。社会的動物でもある。経済学でいう”均衡”なるものも存在しない。存在するのは複雑系のシステムだけだ。
続けて筆者は、不平等と環境に関する経済学者の仮説―経済成長にしたがって不平等や汚染が進行するが、さらに豊かになることでそれが解消される―を反証する。環境も不平等の問題も発展段階から取り組まなければならない。
最後に筆者は、ロストウの経済発展モデルにおいて、成長しないモデル(サーキュラーエコノミー)に”着陸”させるべきだと提言する。間違いなく、成長しないことを受け入れることはとてつもなく困難だ。しかし、この地球で人類が生きていくうえでは、筆者の目指す社会は確かに望ましいと感じさせられる。未来の指針になる書。

一言コメント

資本主義システム(中でも新自由主義)批判は広く主張されていることではありますが、ドーナツの図という非常にわかりやすく視覚的なモデルを導入した効果は大きいのではないでしょうか。GDPではなく、ドーナツの図を使って将来像を語る、そんな世界になってほしいと思います。
2022/3/6

『デジタル化する世界と金融 北欧のIT政策とポストコロナの日本への教訓』

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書名著者読了日評価分野
デジタル化する世界と金融 北欧のIT政策とポストコロナの日本への教訓中曽宏2021年2月7日⭐️⭐️Finance

読書メモ

北欧の事例を基に、金融業界の未来について語った本。キャッシュレスが進むスウェーデン、元ノキア社員を中心に起業が盛んなフィンランド、小国ゆえにE-Governmentの取り組みを進めるエストニア。どの国も進んでいて羨ましい。何よりもの違いは、金融セクターが”時代遅れ”と思われているのではなく、テクノロジーの最先端をいくセクターだと思われていること。金融とはITである。日本でもそのレベル感でITを戦略に取り込み、若いエンジニア中心に推進できる銀行は存在しないのだろうか。

一言コメント

金融業界がITを軸にして変わらなくてはならないということは数々の論考で述べられていることですが、それを実現するとなると非常に大変です。日本においては何が求められているのか、考えさせられます。
2022/3/6

『グレート・リセット』

基本情報

書名著者読了日評価分野
グレート・リセットクラウス・シュワブ, ティエリ・マルレ2021年2月7日⭐️⭐️⭐️Economics

読書メモ

Great Reset―2020年ダボス会議のテーマである。コロナ禍で激動する社会で、どのように資本主義を再定義するのか、それは人類最大の課題である。
マクロ・リセットとしては、①コロナ禍で経済成長が止まり、経済成長に代わるものが求められる。②政府の役割が急速に増し、デジタル・ディストピアに向かうかの岐路に立たされる。③気候変動においてはコロナ禍でアクションが進む可能性も、止まる可能性もある。
ミクロ・リセットとしては、コロナ禍で産業構造が変化し、デジタル化が急速に進んでいる。リモート化できないエッセンシャルワーカーたちが社会で果たしている役割の大きさと、報酬の低さについて注目が集まった。人々の価値観も変化した。社会や環境の価値を認識するようになり、誰もが哲学的な議論に巻き込まれた。個人のメンタルヘルスは大問題になっている。
筆者は、コロナ後に人類が向かう方向について希望を述べて終わる。Build Back Betterの理念のように、コロナ禍を経て、人類がよりよい道に進む方法はあるだろうか。タレブの言う”反脆弱性”のように、危機によって人類が強くなる可能性を信じたい。

一言コメント

コロナで間違いなく世界は変わりました。それをどうポジティブな方向に進めていくかが、人類喫緊の課題なのは間違いないと思います。が、2022年になった今でも、中々よい方向にリセットされてはいないというのが、残念な実感としてあります。数年後このコメントを見返したとき、あの時はそんな悲観的に思っていたのが懐かしい、と、懐古できる未来になっていたらいいですね。
2022/3/6

『ジェンダーで学ぶ社会学』

基本情報

書名著者読了日評価分野
ジェンダーで学ぶ社会学伊藤公雄, 牟田和恵2021年2月7日⭐️⭐️Sociology

読書メモ

ジェンダーの観点から社会学を読み解く。本書は、育つ、遊ぶ、就活するなど様々な観点からジェンダーを捉える。教育においては、見た目上ジェンダー平等が達成されていても、「かくれたカリキュラム」が存在する。男子を先に配置する出席簿や、男子の方を目にかける教師の無意識のバイアスなど。こうした刷り込みは内製化されているので、その存在を認識し社会の認識を変えることは困難だが、無視できないものだ。雇用においては、エッセンシャル・ワークの脱ジェンダー化、女性に不利な日本型雇用慣行の廃止が必要だ。男性もまた、ジェンダー意識によって抑圧されている。男性が経済力を持つことが当たり前の社会では、男性もまた自由な生き方を追求できない。ケア労働については、その多くが女性によって担われ、その価値が適正に評価されていないのが大きな問題となっている。
この本では、表面的な差別だけではなく、社会構造に内製化されている抑圧や男性の視点含めて様々な観点からジェンダーについて学ぶことができる。2021年、東京オリンピック会長の性差別的な言葉が世間を騒がせる中、「すべての人が自分らしく生きられる社会」を実現するため、裏にある構造や無意識の抑圧にも向き合う必要があるのではないか、と感じさせられる。

一言コメント

自身は差別などしていないと思い込んでいても、間違いなく無意識の差別はしているし、社会構造に内製化されている抑圧に加担してもいるのだろうと思います。そこから逃れるためには、まず「知ること」が一番必要なのではないでしょうか。
2022/3/6

『反脆弱性(上)』『反脆弱性(下)』

基本情報

書名著者読了日評価分野
反脆弱性(上)ナシーム・ニコラス・タレブ2021年2月7日⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️Philosophy
反脆弱性(下)ナシーム・ニコラス・タレブ 2021年2月10日 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ Philosophy

読書メモ

(上巻)
ブラックスワンの作者タレブが、Antifragile(反脆弱性)の概念を語った書。圧倒的な知性と教養を併せ持つ筆者が自由に書きたいことを書いているが、メッセージは一つ。「反脆弱になれ」と。変動やリスクによって大きなダメージを受けるのが”脆い”、変動やリスクの影響を受けづらいのが”頑健”だとすれば、”反脆い”ものは、変動やリスクによってかえって利益を得るのだ。人間にも、ストレスを受けたときにストレスにかえって強くなるという”過剰補償”の機構が組み込まれている。この”冗長性”は決して無駄ではない。現代人は時として”観光客化”し、過度にランダム性や危険が取り除かれ、人間が本来持つ”反脆い”システムが機能しなくなっている。現代の病理はもう一つある。オプション性―反脆いシステム―を一方的に利用し、多くの人にブラックスワン的なリスクを押し付ける銀行家のような人々がいることだ。社会を前進させているのは正のリスクテイクをする個人であって、ブラックスワン的なリスクをとっている銀行家や経済学者ではない。このことからは、個人にとっても”バーベル戦略”を選択するべきことが示唆される。すなわち、資産の大部分については徹底的にリスクを回避し、一部については正のリスクをとるという、「負のブラックスワンを回避し、正のブラックスワンによる報酬を期待する」モデルだ。そもそも複雑なシステムの中でブラックスワンを予測などできはしない。過去のデータだけ見ていても”七面鳥問題”に陥るだけだ。学者や合理主義者は、追認の誤りを犯し、自身の貢献を過大評価している。”脆さ”を生む存在を批判し、自身を”反脆く”する、それが必要だと筆者は説く。

(下巻)
反脆弱性の下巻。前巻では”反脆さ”の概念を導入したが、本巻では、数学的定式化を行い、世の中の”フラジリスタ”たちを痛烈に批判する。数学的には、世界は線形ではなく非線形でできている。1mから10回飛び降りるより、10mから1回飛び降りる方が遥かにダメージが大きい。金融などのリスクも同じことだ。次に筆者は”ネオマニア”を批判する。新しいものは脆く、残り続けている知識こそが反脆いのだ。未来を予測する道は新しいものの追加ではない。未来では何がなくなるか、否定的な予測ならできるのではないかと筆者は主張する。続けて筆者は”フラジリスタ”の代表として、現代医学と経済学者(スティグリッツ)を批判する。彼らは自身でリスクを冒さず、不要な干渉主義に陥り、余計なブラックスワン的なリスクを大衆に押し付けている。自分でリスクを負っていない人間の言葉を信じるべきではない―その主張は尤もだ。本書は全体を通して圧倒的な説得力がある。タレブの言う”反脆さ”という概念は、確かなレベルで自身の思考の中にも刷り込まれてしまった。

一言コメント

この作者は自らの思考を他の人に刷り込むことに関して天才という他ありません。”反脆さ”という考え方には大いに影響を受けました。単にリスクを避けるべきではない、というのは過度な清潔さや安全を求める現代人が真摯に受け止めるべき警告なのではないかと思います。
2022/3/6

『「役に立たない」科学が役に立つ』

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書名著者読了日評価分野
「役に立たない」科学が役に立つエイブラハム・フレクスナー, ロベルト・ダイクラーフ2021年2月7日⭐️⭐️Science

読書メモ

1930年に設立されたプリンストン高等研究所の初代所長フレクスナーが基礎科学の有益性について語った論考を再録し、考察を加えた本。筆者のメッセージは、フレクスナーの論考の価値は今なお衰えず、科学者の純粋な好奇心に基づく基礎研究が社会を前進させているのだ、ということ。無線機を発明したマルコーニを称揚するのではなく、その裏にある電気の原理を純粋なる科学的関心から解き明かしたファラデー、マクスウェルを称揚するべきだ、と。電気以外にも、基礎研究が後に応用された例は、量子力学や相対論など多々存在する。何かというと科学が”役立つか”という視点で判断される今、基礎研究の重要性を説いた論考を再び読むことには価値があると感じる。

一言コメント

どうしても政治は科学を役に立つかの観点で評価しようとします。基礎科学の重要性は本書に登場するフレクスナーだけではなく、あらゆる科学者が繰り返し述べていますが、これからも主張し続けなければならないことなのだと思います。
2022/3/6

『自由の限界 世界の知性21人が問う国家と民主主義』

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書名著者読了日評価分野
自由の限界 世界の知性21人が問う国家と民主主義yuval noah harari, エマニュエル・トッド, ジャック・アタリ, マルクス・ガブリエル2021年2月7日⭐️⭐️⭐️Philosophy

読書メモ

世界の偉大な知性21人から学ぶ。欧州やアジア、コロナ後まで、現在の様々な問題について語られる。”新しい世界”と同様、各議論は面白いが、短い論考ではそれぞれの考えの一端しか知ることができない。実際に彼ら・彼女らの著作を読むきっかけを作る、”知性のドーピング”をする――そうした目的で、時に読み返すような本なのかもしれない。

一言コメント

『新しい世界 世界の賢人16人が語る未来』に対する感想とほとんど同じことを書いています。やはり、色々な論者の短い論考の寄せ集めだと全く記憶に残りません。「知」への近道はありませんね。
2022/3/6

『地方創生への挑戦』

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書名著者読了日評価分野
地方創生への挑戦北尾吉孝2021年2月7日⭐️⭐️Finance

読書メモ

SBIの会長が野望を語った本。「公益は私益につながる」という理念には共感する。SBI社は地方創生を前面に掲げ、各地銀との連携を実施している。各銀行のシステムをAPI化し、SBIのサービスとつなぐ―確かに地方創生において欠かせないのはそうしたFinTech企業との連携なのかもしれない。

一言コメント

短い本で、読書メモも短めです。”地方創生”がバズワードとなって久しいですが、それをどう実現するかのロードマップを描くのは想像を遥かに超えて難しいのだろうと思います。地方の未来のために何ができるか考えさせられます。
2022/3/6