『みずほ銀行システム統合、苦闘の19年史』

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書名著者読了日評価分野
みずほ銀行システム統合、苦闘の19年史日経コンピュータ2021年2月7日⭐️⭐️Finance

読書メモ

みずほ勘定系システムの開発についての本。2000年代、2度にわたる大規模システム障害を起こす。その反省を受けて開発された”MINORI”は、想像よりもはるかに進んでいた。マイクロサービス化、クラウド、バッチレス…。AS-ISを排した要件定義…。こんなにも大きなプロジェクト、大きな変革を実施できたということは素直に現場の努力がすごいと感じる。一方で、過去の障害の事例でもわかるように、経営陣には深刻なITの不理解、硬直した組織体制がある。その状況は大きくは変わっていないと思うが、なぜプロジェクトが成功したのだろう?事例から学ぶことは多い。

一言コメント

数少ない本業に関連した本。本書を読んだ後、みずほ銀行で障害が繰り返されたのは記憶に新しいところです。システムとしては決して悪いものではないのではと思いつつ、やはりこれほど巨大なシステムで完璧を実現するのは不可能なのだろうと感じます。質の高い運用というのもまた難しいテーマですね。今となっては批判的に学ぶべき事例となってしまっているかもしれません。
2022/3/6

『新しい世界 世界の賢人16人が語る未来』

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書名著者読了日評価分野
新しい世界 世界の賢人16人が語る未来yuval noah harari, エマニュエル・トッド, トマ・ピケティ, ナオミ・クライン, ナシーム・ニコラス・タレブ, マイケル・サンデル2021年2月7日⭐️⭐️⭐️Philosophy

読書メモ

世界の偉大な知性16人から学ぶ。コロナから経済、不平等に至るまで、現在の様々な問題について語られる。各議論は面白いが、短い論考ではそれぞれの考えの一端しか知ることができない。実際に彼ら・彼女らの著作を読むきっかけを作る、”知性のドーピング”をする――そうした目的で、時に読み返すような本なのかもしれない。実際にこの本の後にタレブの反脆弱性を読み、その思考の深さに圧倒された。同時代の知の巨人に学ぶことは今後も続けたい(同じくらい、読み継がれている古典―すなわち過去の知の巨人の遺産―を学ぶことも重要なのであるが。)

一言コメント

世界の賢人たちの短い論考を複数読めば、彼らの思考を効率よく学ぶことができる―ほど世の中は易しくはありませんでした。現在この本に書かれた内容は何一つとして思い出せません。やはり、思考を知るには主著を最低一冊読むしかなさそうです。とはいえ、次に誰の本を読むべきかの索引としては、価値のある本なのだろうと思います。
2022/3/6

『経済学を味わう』

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書名著者読了日評価分野
経済学を味わう佐藤泰裕, 岡崎哲二, 市村英彦, 松井彰彦2021年2月7日⭐️⭐️Economics

読書メモ

東大の経済学者が自身の専門について語った本。内容自体は初歩的で、大学で学んだことの復習に近かった。確かに大学1、2年生時にこうした経済学の基礎のような講座があれば、より勉強する学問の全体像を理解できていたかもしれない。

一言コメント

読書メモが非常に短いですが、経済学初心者が経済学の概要を掴むための入門書としては非常によいものだと思います。経済学がどのような学問か、しっかり理解した上で進路選択したわけではなかったなあ、と大学時代を思い返します。
2022/3/6

『世界はありのままに見ることができない』

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書名著者読了日評価分野
世界はありのままに見ることができないドナルド・ホフマン2021年2月7日⭐️⭐️Psychology

読書メモ

進化論の立場から、哲学における重要な命題―実在とは何か―を解き明かした本。人間は意識の脳神経科学的な基盤は何かを解明しようとしているが、その答えは全く分かっていない。筆者が主張したいのは、そもそもニューロンが”知覚から独立して存在”し、そこら意識=知覚が生まれるというモデルが誤っているのではないかということだ。その主張を裏付けるため、筆者は知覚についての進化論的な説明を試みる。人間の知覚は、世界を正しく認識するようには進化しない。人間の適応度を最大化するように進化するのだ(FBT定理)。知覚は一つのユーザーインターフェース(ITP)であって、知覚から独立した実在などというものはない。後半では、様々な錯覚の例を基に、人間の知覚に備えられている補正機能(ヒューリスティックス)を説明する。知覚は完全でなく、完全であるべきではないのだ。本書の最後で筆者は、知覚から独立した実在はないという主張に対する様々な科学的な批判に対して反論する。筆者の主張のうち、「知覚は世界をそのまま記述するようには進化しないだろう」という指摘については同意する。一方、知覚から独立した実在なるものはないのだという主張については理解しきれていない。誰も見ていないときにも太陽は存在するはずだ。この反論はなぜ妥当ではないのか。さらなる思索が必要だと感じた。

一言コメント

実在論VS観念論はずっと哲学の主要命題であり続けていますが、その問いに進化論・脳科学からアプローチした本。哲学的理解も科学的理解も足りていない中で、理解できたのはほんの一部でした。自身の知覚は世界の真の姿を記述するものではない、というのは当然にも思えますが、つい忘れてしまいがちです。
2022/3/6

『社会はなぜ左と右にわかれるのか――対立を超えるための道徳心理学』

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書名著者読了日評価分野
社会はなぜ左と右にわかれるのか――対立を超えるための道徳心理学ジョナサン・ハイト2021年2月5日⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️Psychology

読書メモ

なぜリベラルは保守に勝てないのか―その理由を解き明かした本。筆者はまず、理性中心主義を批判する。政治的議論・道徳的議論において、人間は理性的な判断をしていると思いこんでいるが、実際には、”象”―すなわち直感ーに支配され、”乗り手”―すなわち理性―は直感的判断の正当化を行うにすぎないのだ。
次に筆者は、道徳的基盤の概念を導入する。道徳とは完全に習得的なものではなく、リベラルが想定するように”危害を避ける”のみに帰着できるものではない。道徳基盤は6つ存在(ケア/危害、公正/欺瞞、忠誠/背信、権威/転覆、神聖/堕落、自由/抑圧)し、保守主義者はそのすべてを考慮するが、リベラルはケア及び自由基盤を特に重視し、他の基盤は存在しないかのようにふるまう―極めてWEIRDなことに―。ここにリベラルが勝てない理由があり、この議論はトランプの影響が未だ強い2021年にも深い教訓を残している。
続けて筆者は、”利己的な遺伝子”論を否定し、葬られた”群淘汰”の理論を見直す。人間は社会的な動物なのだ(私たちの90%はチンパンジーで、10%はミツバチだ)。宗教も無神論者が言うような全く不要な妄想ではない。強い社会を作り、群淘汰に勝利する上で必要不可欠なものだったのだ。その点において筆者は、過度な合理主義や個人主義に陥りがちなリベラルを批判する。
筆者は、リベラルと保守の双方から学び、よりよい道を選ぼうというメッセージをもって本書を終える。リベラルな価値に共感しつつ、リベラルに批判的でありたい。自身の思考を方向付けた本。

一言コメント

思考を一つ上のレベルから俯瞰して見る知恵をくれる本だと思います。あらゆる思考や思想に対して批判的でいたいですね。
2022/3/6

『国際秩序』

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書名著者読了日評価分野
国際秩序細谷雄一2021年1月23日⭐️⭐️⭐️Politics & Law

読書メモ

”勢力均衡”、”協調”、”共同体”の3つの原理によって、どのように国際秩序が形成されてきたかを語る。ウェストファリア条約で主権国家体制が成立した後、一貫して中心的な原理は”勢力均衡”だった。覇権を求める存在(ルイ14世、ナポレオン)が出てくる度、周囲の国が同盟を組んで、勢力均衡によって抵抗する。ウィーン体制は”協調”と”勢力均衡”を特徴としたが、反動的な君主国と自由主義に寛容な国(イギリス・フランス)の間には必然的に理念の違いがあった。”協調なき均衡”を特徴としたビスマルクによる属人的な国際秩序の後、新興勢力ドイツは孤立し、第一次大戦に至る。ベルサイユ体制は、”協調”と”勢力均衡”を指向したが、バランサーとなるべきアメリカはヨーロッパから手を引き、賠償負担への怒りからドイツにナチス政権が成立するに至る。二次大戦後、ついに”共同体”原理に基づく国際秩序(国際連合)が成立した。冷戦期は確かに”恐怖による秩序”ではあったが、共通価値によって大国間では平和が保たれたのは事実である。冷戦後は、ハンチントンが述べるように、”文明の対立”が主要な脅威になる。現代の米中対立に目を向けるとどうなるだろうか?日米印豪による関係深化はまさに勢力均衡の枠組みである。国連という共通価値に頼りつつ、急拡大する中国を抑えられるか――外交政策の決定の上で過去の国際秩序がどう形成されたかを学ぶことには意味があるだろう。

一言コメント

高校時代にはかなり興味があった分野の本を再読しました。国際社会に秩序をもたらす枠組みを大きく整理した本書の内容からは学ぶことが多くありました。2022年3月6日現在、ロシアによるウクライナ侵攻が発生しており、国際秩序は大きく揺らいでいます。NATOという勢力均衡に基づいた抑止も機能せず、相互不信の中協調も難しい。常任理事国の行動に対しては国連という共同体も機能しない。難しい状況の中、国際秩序をどう取り戻すかが問われています。
2022/3/6

『ニクソンとキッシンジャー』

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書名著者読了日評価分野
ニクソンとキッシンジャー大嶽秀夫2021年1月23日⭐️⭐️Politics & Law

読書メモ

ニクソン・キッシンジャー外交について語った書。1960年代後半~1970年代初頭のアメリカは、冷戦構造とベトナム戦争の中、複雑な外交が求められた。そうした中で、米中国交正常化、ベトナム戦争終結、米ソ兵器削減交渉(SALT)を実現させた経緯を読み解く。結果として成し遂げたことは極めて”ハト派”的だったが、決して彼らの外交姿勢はリベラルではない。むしろ、戦略的に”タカ派”の手法を用い(名誉ある撤退を実現するための北爆など)、相手を交渉のテーブルに引き出した。ニクソンもキッシンジャーも、当時の主要プレイヤーの思惑を全てわかっていたわけではなかった。ベトナムは中国、ソ連の言いなりではなかったし、中国はアメリカ以上にソ連と日本の再軍備化を恐れていた。ある意味で無知だったが、明確なリアリズムに沿った外交を展開したことで、結果として平和が実現できたのかもしれない。

一言コメント

高校時代に読んでいた本の再読。ニクソンもキッシンジャーも歴史上の人物としてしか知らない世代ですが、功罪あったであろう彼らの外交からは今も学ぶことがあるのだろうと思います。タカ派的な外交が逆説的に平和を呼ぶことがあるということは、国際外交のリアルを表しているかもしれません。
2022/3/5

『じゅうぶん豊かで、貧しい社会:理念なき資本主義の末路』

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書名著者読了日評価分野
じゅうぶん豊かで、貧しい社会:理念なき資本主義の末路エドワード スキデルスキー, ロバート スキデルスキー2021年1月23日⭐️⭐️⭐️⭐️Development

読書メモ

現代の西洋資本主義社会は豊かだが、”理念”を欠く―筆者のメッセージはそこに尽きると思われる。
ケインズ研究者の筆者は、1930年に発表された”孫の世代の経済的可能性”という論考(人類は十分豊かになり、労働時間を減らすだろう)から出発し、それが達成されていない理由を解き明かしていく。消費はウェブレン効果により、顕示的消費になり、欲望は収まるところを知らない。古来からあった浪費は悪だという宗教的な倫理感は、学問の発展と共に骨抜きにされた。その最たるものが経済学で、”効用の最大化”を求め、どう生きるべきかについては明確に”価値中立的”な立場をとる。(”幸福の最大化”を求める近年の議論も、それが主観的幸福にとどまっている限り、同じことである。)それはロールズ以降の哲学も同様で、センやヌスバウムの潜在能力アプローチも、潜在能力の最大化を越えて、結果として実現した人生のよさまでは扱わない。
筆者は、どう生きるべきかについて”価値中立的”であるべきではない、と説く。よい生き方という結果を構成する7の要素(健康、安定、尊厳、人格の確立、自然との調和、友情、余暇)を基に、格差の縮小やベーシックインカム、社会的介入政策の必要性を提唱する。近年の”Great Reset”にもつながる論点かもしれない。貪欲を悪とするような”道徳的理念”から逃げる(中立を装う)べきではない―この主張には大いに共感した。

一言コメント

経済学は客観的・科学的を装うために、”ホモ・エコノミクス”という仮想の存在を想定し、効用の最大化を目指しますが、「それは仮想の存在に過ぎない」ことがいつからか忘れられてきたように思います。客観的であろうとする学問が道徳の領域に踏み込むことは困難も伴いますが、社会科学である以上、純粋に”記述的”であろうとすることは不可能であるし、望ましくもないのだろうと感じます。
2022/3/5

『リーマン教授にインタビューする――ゼータの起源から深リーマン予想まで』

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書名著者読了日評価分野
リーマン教授にインタビューする――ゼータの起源から深リーマン予想まで小山 信也2021年1月23日⭐️⭐️⭐️Mathmatics

読書メモ

リーマン予想についての本。リーマン予想は素数の分布を示すがゆえに重要である。リーマン予想やそれを巡る数学的議論は難しすぎて追いきれないが、リーマン予想がヒルベルト問題にもミレニアム問題にも採用され、未だに未解決であることはよくわかった。数学者は不等式による評価など様々なアプローチを試しているが、境界となる数字をどんどんゼロに近づけていく手法にはどうしても限界がある。ABC予想を解決した望月教授のような革新的な手法が待たれる。
リーマン予想は予想自体の理解もままならないが、オイラー積という発想の天才性と、解析接続によって広がる世界には心が惹かれる。

一言コメント

すべての素数が登場する掛け算と、自然数の累乗の逆数和が一致するというオイラー積という発想に感動しました。リーマン予想を理解しきるには複素関数論の知識が足りませんが、解析接続が見せてくれる奥深い世界の一端は知ることができた気がします。生きているうちにリーマン予想が解かれる様子を見てみたいですね。
2022/3/5

『ビッグ・クエスチョン 〈人類の難問〉に答えよう』

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ビッグ・クエスチョン 〈人類の難問〉に答えようスティーヴン・ホーキング2021年1月23日⭐️⭐️⭐️Science

読書メモ

ホーキングが”ビッグクエスチョン”について語った書。神はいるのか?宇宙の始まりは?ブラックホールの中身は?時間は越えられるのか?宇宙に進出するべきか?こうした問いに、純粋に科学的な視点から答えていく。
ホーキングの功績で最も有名なのは、情報パラドックスに対するブラックホールの熱放射(ホーキング放射)だろう。本書でもそれについて語られるが、いつか実験で確かめられる日は来るだろうか。ホーキング死後、ブラックホールの直接観測が世間を騒がせたのは記憶に新しい。時間に関する章では、時空を負の曲率を持つよう曲げられれば過去へのタイムトラベルができるが、時間順序保護仮説によると、それはおそらくできないだろう、と。現時点の科学を見る限り、その主張は尤もだと思われる。
最終章では、スーパーインテリジェンスや遺伝子改変に対する懸念に触れつつも、科学に対する希望を述べて終わる。天才科学者の言葉は深いものがある。

一言コメント

世界で一番有名な科学者であったかもしれないホーキング博士の書です。今世紀の科学が何を明らかにしてくれるのか、気になります。
2022/3/5